その8 要因
小説を書いています
かけがえのない日本の片隅から
アンのように その8 要因
カテーテル検査を待っている間に 紘一郎と恵子の夫婦は 父正一郎の思いを想像していた。
「親父は J航空会社の会社倒産の新聞を読んだのだな。」
恵子はびっくりして、夫の顔をまじまじと見た。
長男優は 父親の言っている真意が測れなかった。
「もともと心臓が弱っていたのに、あの誇り高い親父は自信のあったJ社の上場廃止の記事を見て、大きなショックを受けたんだ。」
恵子は初めてことの真意がわかったようだった。
「まあ、それで最近は特に口数が少なくいらしたのね・・気の毒にお一人で悩んでいらしたんだわ。」
紘一郎は悔いた。
「黙っていればよかったのに、俺はお節介にも親父にJ社の株を売るように奨めてたのだが、そのままにしてあったんだろう、息子に自分の財産についてとやかくなんていわれたくなっかのだろうね。それが一瞬でパーになったんだ・・心臓にくるよな・・」
恵子と優も 内容が理解できたので、益々正一郎の悔しさが慮られた。
恵子はふと子どもの頃に読んだ 「赤毛のアン」の育ての親でアンが大好きだったマシューの死のきっかけを思い出した。
マシューも心筋梗塞だったのだ。しかも妹マリラに注意を促されていた、地域銀行の破綻の新聞を握り締めてのことだった。
どの時代もそういう哀しい事実がある。
しかしそれを読んだ恵子は大人になるまで銀行や証券会社 などの破綻が日本にも起こりうることを知らなかった。
舅の正一郎は経済観念に長けていた人で、家族の中でそのことが家長たる一つの大きな礎になっていた。
その自信が崩れるような事件となって、J社の持ち株が紙切れになってしまったことへの哀しみがこの病因になっていたのかもしれなかった。
つづく

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by akageno-ann | 2010-01-26 21:10 | 小説 | Trackback | Comments(4)