その11 先進医療
小説を書いています。
かけがえのない日本の片隅から
アンのように その11 先進医療
正一郎は心臓血管の一部に詰まりそうな状況があることがわかった。
80歳を越える年齢を考えれば、長年使ってきた身体の器官のそちこちに問題が起こるのも不思議ではない。
今回の状況もそのまま心筋梗塞として命を落としていたとしても、全く不自然ではなかった。
しかし幸いにして、的確な処置が施されて、正一郎は命を存えていた。
家族一同安堵の胸をなでおろしたところである。
翌日、病院を改めて訪れると、受付で昨晩の集中治療室にはいないという。
「ですから、一般病棟の面会は午後1時からですから、早すぎますね。」
と、つっけんどんな案内人の言葉が返ってきた。
紘一郎は仕事を午前中休んで、足を運んでいることもあり、一瞬不機嫌になった。
「しかし、昨晩救急で運ばれて、今朝は10時でいい、と伺ったのですが・・」
そうぶっきら棒に聞くと、恵子は急いで
「恐れ入りますが、病棟に問い合わせていただけませんか?」
と、取り入った。
受付も少したじろいて さっそく受話器を持った。
「受付ですが、堀田正一郎さんのご家族が面会にみえてますが・・はい・・はい・・わかりました。」
と電話で話をして、すぐに
「どうぞ、病棟の方にお越しくださいとのことです。」
と事務的に応えた。
紘一郎はいささか、むっと着ている気持ちを抑えかねていたが、恵子に促されて静かに頷いて病棟へのエレベーターに向かった。
「こういう大病院はしかたないのだと思うわ!」
そう恵子に慰められて、心を落ち着けていた。
病室は厳重なセキュリティで名前と事情を入り口でチェックされて自動ドアが開かれた。
ナースセンターのすぐ前の病室だった。
四床あるベットの一番入り口近くに父正一郎は眠っていた。
顔色はよく、すやすやとした寝息だった。
看護士がすぐに入ってきて、
「ご心配かけてすみませんでした。急にこの病棟に朝移ったものでご連絡もできずに・・」
その丁寧な挨拶に紘一郎の固い気持ちも解けていた。
しかもその看護士がなかなかの美人だった。
「いや、お世話になっています。如何ですか?病状は・・」
「あとで医師から話がありますが、安定されています。」
「お父さん・・」
恵子は少し目を開けようとしている舅正一郎の様子に思わず声をかけた。
「ああ・・来てくれたか・・どうやら助かったようだ。」
その正一郎の言葉に恵子は思いがけない心の動揺があり、涙が出てしまった。
不思議だった。嬉しかったのだ。
「よかったです、お父さん。子どもたちも皆喜びますよ!」
正一郎は静かににをはじめた。
つづく

絵は「ひげじい脳梗塞からの軌跡」より拝借しています。

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by akageno-ann | 2010-02-02 20:14 | 小説 | Trackback | Comments(3)

ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。

やはり恵子さんは素晴らしい奥さんですね。
ちゃんと紘一郎さんのフォローをさりげなくして、病室に入れる段取りを自然に出来るんですから。
大きな病院の様子がダイレクトに伝わって来ました。正一郎さんも、意識を取り戻すのが早くて、みんな安堵したでしょうね。
特にpaniヴァンを可愛がってくれたダディと正一郎さんが同じ年なので、グっと身に詰まされました。
私も、早く良くなっていただきたいと思います☆
ちゃんと紘一郎さんのフォローをさりげなくして、病室に入れる段取りを自然に出来るんですから。
大きな病院の様子がダイレクトに伝わって来ました。正一郎さんも、意識を取り戻すのが早くて、みんな安堵したでしょうね。
特にpaniヴァンを可愛がってくれたダディと正一郎さんが同じ年なので、グっと身に詰まされました。
私も、早く良くなっていただきたいと思います☆
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病院に行ったら受付態度が事務的だったという話を
昨日身内から聞いたばかりだったので、
思わずその様子が目に浮かびました。
正一郎さん、助かってよかったです。
家族の新たなスタートですよね。
うちも父が倒れてから、家族として再スタートした気がします(^^)
昨日身内から聞いたばかりだったので、
思わずその様子が目に浮かびました。
正一郎さん、助かってよかったです。
家族の新たなスタートですよね。
うちも父が倒れてから、家族として再スタートした気がします(^^)