アンのように その20 食に救われる
小説を書いています。
かけがえのない日本の片隅から
アンのように その20 食に救われる
叔母との夕食の席で恵子はこれまでの義父正一郎との間になったわだかまりが少し解けたように感じていた。
人が人と出会って 別れるまでの間に流れる時間は自然に必要なだけの長さが営まれるようだ。
恵子は姑のことは同性である故に今はその場にいない存在であっても、またはいそこに存在しないために余計に心を理解することができるのだった。
しかし異性である舅は 夫の性格と似ているところがある、ということ意外にはその心を推し量ることができなかった。
だが、あきらかに姑は夫正一郎の影に隠れて、その生活の全般を支えてきたことを身に沁みて感じ取っていた。
その姑に報いることもその後を継ぐように堀田家の主婦をここまで続けてきた恵子の役目だった。
叔母克子は恵子のこれまでの尽力について賛辞を述べてくれていた。
「恵子さん、本当によくやってくれましたね。兄は幸せだと思いますよ。
亡くなった義姉は兄をあまり理解していなかったようですよ。
食事作りも丁寧ではあったけれどセンスに欠けると、よく兄はぼやいていたの。」
それを聞いて恵子は意を決した。
「叔母様 私を認めてくださって本当に感謝します。でも亡くなられたお義母さんのお料理には私は敵いません。お義母さんは毎日の食事作りのために晩年の命を削られていました。そして私がこの家に入ったときに、決して家事だけに埋没してはいけない、と私に自分のための時間を大切にするようにおっしゃってくださったんです。」
そう一挙に話す恵子の頬は紅潮していた。
叔母の克子はそのように話す恵子を初めて見るような思いで見つめていた。
つづく
絵は「ひげじい脳梗塞からの軌跡」より拝借しています。
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by akageno-ann | 2010-03-11 23:23 | 小説 | Trackback | Comments(1)