小説「かけがえのない日本の片隅から」part2
第一章 その1
祭り
いつもより暑い夏を迎えて、坂の多い住宅地の人々の歩みはスピードがぐっと落ちている。
暑さを凌ぐために犬の散歩も ウオーキングの人々も朝は早く、夕方は日暮れ近くになるとやっと
増えていくようだ。
道端のタチアオイの花が炎天下に拘わらず、色鮮やかに元気よく開花して道行く人々を勇気付けているようだ。
7月の第三週目の土曜日は必ずこの地域の夏祭りで、7月1日から静かに始められていた無形文化財のお囃子の練習は、この祭りに引き回される屋台の上で見事な本番を迎えていた。
子どもたちの人数が減ったことから、昨年からは希望者に半被と豆絞り用の手ぬぐいを振舞うという企画で子ども御輿が新たに加わった。
幼いまだ母親に手を引かれなくてはしっかり歩くことのできない子どもたちも 少し祭りようの化粧をされて 神妙にあるいていた。
しかしアスファルトを30分以上歩いてきて、さすがにむずかる子どもの姿もあった。
この住宅地は700世帯ある。
山を切り開いて造った 30年以上前の新興住宅地で、今でこそ地元の人々と手を携えてこの祭りを盛りたてているが、都心から移り住んできた人々が地域の行事を大切にする心が育つにはそれなりの時間がかかった。
だが、今年もまた住宅地の一番大きな公園に山車や屋台車の休憩所を造って、神事にまつわる食べ物や飲み物、子どもたちのためのスイカなど冷たく冷やして東屋に用意し、暑さの中を廻ってきた人々をそれぞれに労っている姿がある。
人と人が睦み合うということは意外に時間がかかるもだと その祭りを見に飼い主に引かれて同行していた ハナという犬は他人事のように思っていた。
『ハナちゃん、今日の散歩は暑いね!』
そう声をかけて近寄ってきたのは 散歩仲間のスコッチテリアのキタロウだった。
『キタロウちゃん、今年は暑いね。私は本当は散歩したくないの・・』
ハナの飼い主はここで30年以上を暮らしてきた石元という初老の婦人だ。
キタロウはもう古希を越えた中川という老人に連れられて、今日も3度目の散歩だという。
ハナは柴系の雑種でこの公園で拾われて、石元一家と15年を過ごしてきた。
この地域の四季と自然の変化を楽しむ術を身につけていた。
15年の歳月は犬にとってはほぼ一生に価するという年月だ。
ハナは年のわりに元気で、ここで知り合ったたくさんの犬や その飼い主たちとの交流を少しずつ懐かしみ、語る準備ができているようだ。
つづく
物語の登場人物、設定は架空のものです。
写真は夏の国営越後丘陵公園・・(長岡市)
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by akageno-ann | 2010-08-01 23:19 | 小説 | Trackback | Comments(17)
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flyrobin at 2010-08-01 23:46
新しい小説。。始まりましたね!
ワンちゃん目線で話が進行するのでしょうか。。。
これから、また、pcを開ける開ける楽しみが増えました♪
続編、待ってますね~。
ワンちゃん目線で話が進行するのでしょうか。。。
これから、また、pcを開ける開ける楽しみが増えました♪
続編、待ってますね~。
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nanako-729 at 2010-08-02 00:24
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chanmie526 at 2010-08-02 09:01
小説・・スタートですね~
「書く」という行為は、客観的に物事を見れるので、新たに、
「見えてくる」部分も多かったり・・・
なによより「意欲」や「余裕」も必要だから~
annさんのその、エネルギー・・・
私も猛暑に負けずに、見習いますね(#^.^#)
「書く」という行為は、客観的に物事を見れるので、新たに、
「見えてくる」部分も多かったり・・・
なによより「意欲」や「余裕」も必要だから~
annさんのその、エネルギー・・・
私も猛暑に負けずに、見習いますね(#^.^#)
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akageno-ann at 2010-08-02 09:38
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akageno-ann at 2010-08-02 09:39
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ak-joyful at 2010-08-02 09:49
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明日香
at 2010-08-02 10:12
x
ハナちゃんの名前を目にして、あのハナちゃんを思い出しました。そして何故かジロちゃんも。これからどんな展開になっていくのか楽しみです。
もしかして小夏ちゃんも密かに読んでいたりして・・・!?
もしかして小夏ちゃんも密かに読んでいたりして・・・!?
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sorade-su at 2010-08-02 12:05
今、私の隣でコンビニのお弁当プラスカップラーメンを食べている同僚もハナちゃんと呼ばれて、
みんなから親しまれています。
130kgもある大きな身体は、まるで熊もぬいぐるみみたいです。
ここんとこ続く猛暑で、かなりぐったり気味ですが・・・。
お祭りは、日本の夏の風物しですね。
小説の続きを楽しみにしています。
みんなから親しまれています。
130kgもある大きな身体は、まるで熊もぬいぐるみみたいです。
ここんとこ続く猛暑で、かなりぐったり気味ですが・・・。
お祭りは、日本の夏の風物しですね。
小説の続きを楽しみにしています。
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akageno-ann at 2010-08-02 12:33
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akageno-ann at 2010-08-02 12:36
ak-joyfulさん、恐縮です!私のまわりにあまりい犬との関係が増えてきて・・犬同士何か話し合ってるなあ・・と感じているものですから・・
スパーキーちゃんの犬種もいるんですよ。
この小説を書きながら、布絵のモチーフを考えて行きたいとも
思っていますがそちらの根気がまだまだです。
スパーキーちゃんの犬種もいるんですよ。
この小説を書きながら、布絵のモチーフを考えて行きたいとも
思っていますがそちらの根気がまだまだです。
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akageno-ann at 2010-08-02 12:37
明日香さん・・・通ってくださるという言葉に励まされました。
ありがとう・・気楽に覗いてください。
ありがとう・・気楽に覗いてください。
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akageno-ann at 2010-08-02 12:38
Nobueさん。貴方にはもっと犬の声が聞こえているのではないか・・と思います・・最近感じる犬との会話・・ジロのことも思い出してます。
早速のコメントに感謝してます!
早速のコメントに感謝してます!
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akageno-ann at 2010-08-02 12:40
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ka-chan-anone at 2010-08-02 17:31
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at 2010-08-02 23:01
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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akageno-ann at 2010-08-03 01:41