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LIVE 第二部 no.2 牧子と直子

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かけがえのない日本の片隅から
LIVE 第二部 no.2 牧子と直子

片桐悦子の携帯電話がなったのはそのときだった。

勤務中に私用の携帯電話に出ることは殆どないのだが、その日は小刻みに脈打つ心臓の鼓動を感じながら、それでもしっかりとした声で悦子は応えた。

「はい、何かあったの?」

その落ち着きのある声に相手もしっかりとした口調で話し始めることができた。
悦子の母であった。

「えっちゃん、仕事中に悪いわね。 今牧子が倒れてそちらの病院に救急車で運ばれている、と佐藤さんから連絡があったの。詳しいことはわからないけれど、直子も一緒に救急車に乗り、佐藤さんは自分の車を運転してついていっているって・・・」

母もこういうときであるのに、比較的落ち着いている。

「わかりました、第一報は入っていて、名前まで確認していなかったけど、お姉ちゃんに間違いないわね。今待機中です。お母さんどうします?来れますか?」

その問いに母は即答した。

「今、お父さんがタクシー呼んでくれたから行きます。」

「気をつけて、こちらは万全のことをしますから、急ぎすぎないで、安心して来てください。では」

悦子はそう言って電話を切った。

近くにいた若いスタッフは心配そうにそれをみつめ、次の悦子の言葉を待った。

「ごめんなさい、私用の電話です。やはり運ばれてくるのは私の姉のようです。よろしくお願いします。」

「はい!」

スタッフのキリリとしたその返事に悦子はこのときほど救われたことはなかった。

時刻は夜の9時を少し廻ったところだ。

夜の空気が澄んでいるせいか、かなり遠いはずの救急車のサイレンの音が聞こえる。
それは空耳ではなく、確実にこちらに近づいている、姉の病状が大したことでなければいいのだが、この病院を指定するところが悦子の不安を募らせていた。

救急救命室のサイレンがなって、患者が間もなく到着する旨を知らせた。

スタッフ4人がすぐさま受け入れ態勢をとった。

悦子は身内であるが、ここは彼女ならば冷静に対処できるであろう、と事情を知った医師も彼女の肩を軽く叩いただけで何も言わなかった。

余計な安心感を持たせるような不遜なことも言わなければ、哀れみの言葉もかけない。

悦子はここのスタッフの本当の思いやりを知ると共に、皆医学の道を邁進している素晴らしい人々であることをひしひしと感じることができた。

慌しくストレッチャーは運ばれ、最初に聞こえた声は


「ママ、ママ、ママ・・」と叫ぶ 牧子の娘直子の声だった。

胸に響くその声に、悦子は直子を抱きしめてやりたい衝動はあったが、

「直ちゃん、大丈夫、しっかりお母さんを呼んで励ましてやりなさい。」

と、厳しいような声で言った。

直子もまた、その悦子にすがろうともせず、大きく頷いて母親の牧子を呼び続けた。

牧子は日ごろの快活な彼女ではなく、顔を苦痛で歪めて、全身にかなり痙攣を起こしているようだった。

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by akageno-ann | 2010-12-03 23:00 | 小説 | Trackback | Comments(2)

Commented at 2010-12-04 10:17
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by mahos-table at 2010-12-05 06:44
annさんお久しぶりです!
続きが読みたくなりますね~
お姉さん、どうなるのでしょうか。。。。
自分の身内がこんなことになった時、
自分は果して冷静でいられるのか、と考えてしまいました。

ご無沙汰してます。
お元気そうでなによりです♪♪
塩けんちん、簡単なのでぜひ作ってみてくださいね~
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