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LIVE 第3章 no.8  諭す

小説「かけがえのない日本の片隅から」第3章です。
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LIVE 第3章 no.8  諭す

病室から先に出て行ってしまった向井公一を 悦子は追いかけて、急いで捉まえ様とした。
少し急ぎ足で肩がいかって見えるのは、不愉快さを表す向井の癖だった。

「向井先生、待ってください。」
ほんの少しだけ声を大きくして悦子は向井を呼び止めた。

それでも少し歩速を緩めただけで振り替えらない彼の袖を掴んで

「先生、患者さんのことでお話がありますから・・」
と強く引きとめて、談話室に入った。

向井も口元を少し曲げながらもその部屋に入った。

「先生、あのような言い方では患者さんを説得したとしても、医師に手術を強要された、としかとられないと思います。先生はいつも患者さんの病状の最善を尽くそうと考えていらっしゃるけれど、その説明はあまりにそっけなく、結論を急ぎすぎます。先ほどの患者さんの年齢をお考えください。ご家族の方たちだって、治したいでしょうけれど、もしも手術という大きな治療をして今の状態より悪くなった時はどうしようか・・と考えるのです。」

悦子はそう立て続けにしゃべった・・

「しかし、そんなに難しい手術じゃないんだ、今となってはバイパス手術は大動脈瘤の手術に比べればリスクはすくないし、あの患者はその後に胃癌の手術が控えているんだろう・・なんで急がないんだ・・」

苛立っている向井がそこにいた。

「そういう先生のおっしゃり方は少し考えていただきたいです。患者さんの人生の中に手術に対する恐怖感があったらそれを瞬時に拭い去ることはできないだと思います。
あの方の弟さんは10年前に動脈瘤の手術を地方の病院で行い 術後が悪く病院で亡くなっていらっしゃるそうです。」


そこまで聞いて、向井の顔色が変わった・・

「それ、今聞いたの?」

「はい、傍に入らした息子さんがおっしゃってました。そのトラウマは一族皆もっているのです、とおっしゃってました。10年の歳月とここの病院の先進医療について少しお話してきました。明日の話し合いに他の兄弟を連れていらっしゃる、ということですから、どうぞ明日夕刻必ずもっと冷静にお話してください。きっと今夜皆さんそれぞれに考えられて明日前向きになられると思うのですが、それが先に少し伸びたとしても、あまり強要するような内容は困ります。」

「わかった!」

向井はそのときどこまで悦子の意見を聞き入れたかはわからないが、悦子は言うべきことを言った自分に満足していた。

『とてもじゃないけれど、この人と家庭は持てない。』
ふとそんなことを心に呟いていた。

しかしそれはこの医局でのパートナートしての立場では大いに許せることであった。

それは向井が治療に対し真摯に取り組み研究し、患者を良い方向に導こうとする意志は明確だったからだ。

その彼に看護士の立場でついていくことは、こうした言い合いがあったとしても意義のあることで、満足していた。

『きっとこんな諭すような喋りしかできない私を、彼は嫌になるでしょうね』

と、これは小さく声にして呟いていた。

                                      つづく

by akageno-ann | 2011-02-14 01:13 | 小説 | Trackback | Comments(0)

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