no.12 揺れる思い
小説「かけがえのない日本の片隅から」第3部です。
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LIVE 第3章 no.12 揺れる思い
仕事にしても病人を抱えるという情況にあっても、それを支えていく何か別なことを持ち合わせていないと、ただ日常に埋没してしまう・・ということを悦子は知っていた。
容姿の方も 何か緊張感を持っていないと、すぐに衰える傾向にいく年代になってしまった。
いつの間にか悦子も四十路を迎えていた。
結婚に対する思いは若い頃のそれとそんなにかけ離れていないが、益々自我が強くなっている自分を持て余してしまっていた。
こんな情況ではよほど家事が好き、とか 子供がほしいとかいう目的がなくては結婚には踏み切れない。
仕事をまた姉の看護を中心に生活する上に今悦子があえて結婚するなど、ただ時間がなくなるだけのことだった。
ある意味、今こうして独身であることも有り難いことだった。
若い頃活発で容姿もそこそこの明るい彼女を恋人としたがる異性は確かにいた。
離島の医師になっていった 石井は一つ年上だったが、悦子を共に赴任地に連れていきたくて激しく求婚していた。
石井はインターン時代に若手看護士の悦子と医局で出会い、その屈託のない表現力豊かな悦子を深く愛した。
こんな人とと離島の病院で勤め、愛を育んでいけたら、とどんなに願ったかしれない。
離島の医療について熱っぽく悦子に語り、悦子も他人事のときはその石井の思いを素晴らしいと評したが、あるとき、それが悦子への求婚だと知ったときから、距離を置くようになっていたのだ。
「君は僻地医療への思いはないの?」
そう問い詰められて、その頃の悦子は親の受け売りのようだったのだが、
「まだ看護士として自信がないままにそういう場所に行って、皆さんの役に立てるとは思えないんです。」
そうきっぱりと応えた。
石井はまるで自分の経験不足も併せて言われているようで、ひどく傷ついた。
そしてその感情を表に出さないまま、一人日本海側の島に旅立ったのだった。
悦子はそのことをふと思い返すことがある、結局石井は3年その島にいて、その後本州にもどり、山陰地方の病院で勤めていると風の便りで聞いていた。
つづく
by akageno-ann | 2011-02-18 10:18 | 小説 | Trackback | Comments(1)
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at 2011-02-19 18:22
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