no.14 ただひたすらに祈る
第3章の最終回です。明日から第3部 LIVEの終章に入ります
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小説「かけがえのない日本の片隅から」第3部です。
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LIVE 第3章 no.14 ただひたすらに祈る
看護に問題があったというわけではない。
だが、やはり治療中の患者が水を誤飲して肺炎を起こしたことに、全く責任がない、というわけにはいかない。
その患者のチームスタッフのチーフだった悦子は思い立ってある葬儀に参列した。
病院側もそれを認め、ささやかではあったが、香典を用意した。
事務室からも同行しようか、と 問い合わせもあったが、悦子はたまたま実家の近くの葬祭場であったことから、一人でいい、と断って、実家に一度戻り、喪服に着替えて通夜に参列した。
受付はその職種を見て、はっとした顔をしたが、丁重に案内をしてくれた。
静かな通夜であったが、参列者は多かった。
葬儀は神道であった。
榊を霊前に供えて安らかな昇天を願った。
なおらいの席に招かれて、あまり固辞してもいけない、と少し寄ることにした。
そこに喪主である患者の長男が挨拶に来た。
悦子を見つけて、夫人と共に傍に寄ってきて挨拶をした。
「わざわざお越しくださり本当にありがとうございます。先日の笹島先生のお言葉に私たちは大変恐縮しています。年齢的にも手術中に何がおこっても不思議はない状況の中であのように責任感のあるお話に大変感動しています。母は生涯にわたってよく祈りを捧げていました。
始めはずっと我々家族の健康と幸せを祈り、晩年は決して人に迷惑をかけたくないので守ってほしい、という祈りだったのです。その通りに立派な最後だったと、つくづく思えました。どうぞ笹島先生、スタッフの皆さんによろしくお伝えください。」
悦子は深々と挨拶を返して、「お母様のご冥福をお祈りいたします。」と言葉を添えた。
「祈り」宗教的にということでなく、悦子の祖母も田舎の山の家の縁側に座って、よく太陽や月に祈りを捧げていた。
もう随分昔のことのように思えたが、祖母とのひと時にもその「祈り」があった。
祖母は84歳で亡くなる数日前までやはり自分のことは食事に至るまでしていた。
そして心臓が弱まったように、床につき、静かに息を引き取った。
あの人生の閉じ方を知った人々は皆 祖母に肖りたい、と話していたことを未だに思い出す。
悦子は偶然にも様々なことを思い出す有り難い機会に恵まれたことにも感謝してその場を辞した。
祈り感謝する暮らしの中に 自分へ愛情を注いでくれる人々の思いを感じた。
家庭を作る、ということを少し考えてみた悦子がそこにいた。
LIVE 第3章 了
by akageno-ann | 2011-02-20 21:23 | 小説 | Trackback | Comments(0)