洗礼 その2 バスルームにて
デリーのトイレ事情は、いろいろで、水洗のような水洗でないような・・・
ウオシュレットのようなそうでないような、いたって複雑・・いや実に単純な
状況にあった。
住宅街の寝室にはきちんとバスルームがあって、水洗トイレもついていた。
美沙の家には二つのベッドルームにそれぞれのバスルーム。
一つのほうにはきちんと浴槽もあった。だがそれは美沙たち日本人のために
あつらえたのであって、本来はシャワーだけ・・。
オーナーのバスルームを見せられて、なるほど特別仕立てだとわかった。
とにかく、ピンクの浴槽でなかなか大きく良い感じだと、美沙たちは喜んだ。
だが、このバスルームは本当にいろいろな問題をはらんでいたのだ。
美味しいカレー料理を食べたその夜から、二人はそれぞれのバスルームに
足しげく通う羽目になってしまった。
食中毒にあたった、というのではなく・・どうやらなれないここのギーという牛乳からできる油にお腹がまだ慣れていなかったらしい。
その夜不安で二人は抗生物質を呑んで休んだが、翌朝まで何度トイレに通ったか・・
しかも水の出がすこぶる悪くて・・・気分が悪い。
しかたないので、浴槽に水をはって、手桶で水をトイレのタンクに移して流すということの繰り返しを何度したことか・・・これがデリーの現状だと・・・思い知ったような・・辛い夜を過ごした。
二人とも同じ症状・・・とにかく水分を補わねば、と朝サーバントのローズが作ってくれたボイルドウオーターをまめに呑んでいた。
ミネラルウオーターも買ってはみたが・・こういう体調の悪いときはなんだか不安で呑めない。
水はタンクから降りてくるから停電の時間は自然に断水になる。
しかも停電の時間が毎日必ずある。
朝の仕事はまず水つくり・・・ろ過器を持ち込んでフィルーターを通した水を大きな薬缶で沸騰させること15分・・・気のすむまで煮沸して・・湯冷ましにしたり、麦茶にしたりして冷蔵庫へ。
麦茶は日本から持ち込んだものであった。
お腹はそれほど痛いわけではないが、しぶり腹である。
翌朝も同じ状態、翔一郎は月曜日までには治るだろうと高をくくり、3日目はおかゆをたいて二人ですごした。
が、トイレ通いは収まらず、ついに月曜日に。
この状態を学校でもやれるのか不安になりながらもスクールバスに乗り込む。
美沙はなんとかつくったお弁当を翔一郎が満足してくれるのか不安であったが、見送ったあとはベッドに倒れこんだ。
翔一郎こそしんどい体のまま仕事だが、日本での準備に勤しんだ彼女はそこで力尽きるようにベッドに倒れこみ眠った。
日中は暑くなるが、四月はまだ眠ることができた。
夕べトイレ通いで眠れなかった分を取り返すように。
そして日本でゆったりお風呂に入っている夢をみた。
つづく
声援に感謝します。
小夏庵にも→☆
by akageno-ann | 2011-05-07 08:16 | 小説 | Trackback | Comments(1)