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インドでの自立

ほんの10日ほど前は日本のなんでも揃っていて、食事もなんの不自由もない生活を営んでいた者たちが、突然未知のかなり文化のことなる世界に飛び込んで、「仕事は日本と同様に行え」という指令を受けたとしたら、誰でもそこにすぐ飛び込んで活動できるものなのか、渡航前は皆それが不思議だった。

そして、来てみたらインドはすごく近代的で、そこにはそこの素晴らしい生活があって・・というサプライズも期待したが・・やはり予想と同じような状態があった。

新任三組のそれぞれの家庭はその家族形態にあわせて新しい暮らしを始めていた。

山下家は2歳と4歳の男の子がいて、やんちゃざかり、家の中で遊ばせるだけではとてもエネルギーの発散にはならず、妻の文子も手をやいていた。

ナーサリーといって、日本の幼稚園のようなところも歩いて行ける所にあって、外国人の子供たちもいるという情報を知って、文子も思い切っていれてみようか・・と考えていた。

そうでもしないと、ここでは遊ばせる友達が少なく、かといってサーバントの子供たちと年中遊ばせるわけにもいかないことを感じ取っていたのだ。

自然に日本人教員夫人の中で子供のいる人たちとの交流がしげくなってきていた。

片山家は夫婦二人で気ままな分、ほったらかしにされているような

『このふたりは、なんとか同化してそれなりにやっていけそう』と判断されたような、10日もたつと周りも誠に静かになった。

そろそろ自立せよ・・ということのようだと感じた。

お金も銀行でルピーを手に入れたし、先ず最初に必要だったカーテンも

『インドって結構早い』と感じる早さで室内に取り付けられた。

ライナーという裏地がしっかりついた立派なもので値段は二部屋分で10000円ほどかかったが、日本よりははるかに安いのに、なかなかの仕上がりであった。

しかも柄が豊富で布もしっかりしている。

インドを軽く見るな・・・・・と言われそうだ。

そうかと思えば、サーバントに合鍵を渡す方が便利だということで合鍵を作りたいとそのサーバントに相談すると、
『ラジパトマーケットにある、』というので二人で出向くと・・・・・テントの奥に小さな棚があって、そこで作るという・・

なんだか怪しそうで・・・大切な家の鍵だからどうしようかと思ったが30分すればできるというので、張り付いて待っていた。

え?こんな道具で・・と思うようなやすりで似たような鍵を探し出してマスターキーと合わせて削る・・・

まあ、そのマスターキーもさして高級なものでなく・・見ながら

『これは日本から持ってきた錠前をもう一つつけておかないと危ないなあ』
などとつい疑い深く考えてしまっていた。

でも、たしかに30分もしないうちにできあがり、100円ほどとられただけで・・

半信半疑で家に持ち帰り鍵穴にいれてみると・・合う・・・・

う~~~~ん・・ますます信じられない・・・・・・と片山夫妻はそういうことをちょっと楽しんでいるようだった。


平田よう子は相変わらず、全てに慎重に暮らしていた。

こだわろうとすれば、ここの暮らしは一つ一つが気に入らない。

『今一番嫌なのはコックである』

彼女にとってはまるで姑のような年齢で、しかも

『この家について何でも知ってるから心配するな、前のマダムはああした、こうした』と、偉そうに言うのが気に入らない。

『前のマダムの話を持ち出さず、私の言うとおりにやってほしい』と

拙い英語でもきつく話す。

しかし彼女はめげることをしらない。

なんでも『ノープロブレン』  問題ない・・と片付けるところがまた大いに気に入らないのだ。

三組の新任の夫人で会って話すと、皆その時の興味の対象が異なることに気付きながら

それぞれの不平不安を語り合うことになる。

初めから、なるようになる・・という感じで過ごしている片山美沙と、何事も面白おかしく感じて一見デリーの生活を楽しむ山下文子。

しかし二人とも ここで一つ一つこだわり、気難しく捉える平田よう子をある意味で立派だと感じていた。

面倒がらない・・・それを貫いていくのはここではとても精神力がいることだった。

だが平田家は夫の久雄がまことに献身的であった。

妻と娘に不自由な思いをさせられない、という思いが両肩にしっかりぶらさがり、それを決して辛そうにしないのだ。

山下文子はその久雄の男らしさに内心で嫉妬したほどだったのである。

                                  つづく

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小夏庵にも→☆

by akageno-ann | 2011-05-14 00:39 | 小説 | Trackback | Comments(0)

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