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デビュー

4月は日本でも、新旧の入れ替えがあり、なんとなく落ち着かぬ時期だが、様々な形でデビューがあり、新人はもとより、先輩たちも心躍ることである。

デリーは一日でも先に着任したものが、偉い・・・という冗談が本当のようにまかり通っている。
1日でも早くこの暑さを、混沌とした風景を、不便さを体験したものが・・先にデリーを制する、というのだ。

だからデリー滞在の1年先輩は年齢に関係なくちょっと偉そうにしている。
と、いって威張っているわけではないが、デリーの暮らしに風格が感じられる。

昨年自分たちが通ってきた道を、落ち着いてレクチャーし、そうしながら自分たちの成長に感動しているのかもしれなかった。

ヒンズー語がうまくなったわけではないが、インド英語、買い物の時の値切り方、様々なクレームのつけ方も習得している。

だから、今年の新人たちの最初の買い物や、言葉、サーバントの使い方など、つい気になってしまうようだ。

平田家のサーバント、ミウリは日本人学校の職員の家庭にいるサーバントの最古参で、日本語も単語ではあるが、かなりわかっていた。

少々先回りして家をきりもりすることで よう子にうとまれ、5月はじめについに解雇されることになった。あまりの展開の早さに皆息を呑んだ。

だが、慎重で綺麗好きな よう子には、衛生観念がもう一つ気に入らないし、姑みたいに口出しされることに、日々ストレスが溜まっていった。

「パパ、明子(めいこ)が彼女を怖がるのよ・・。」

夫の久雄も、よう子が子供のことを持ち出してきたら、それは最も愛おしい娘、最優先に
考えることにしていた。

ここで他の新任二人はそれぞれの思い出平田家の動向を見守っていた。

片山家では指をくわえて見ているしかできないことに腹立たしさがあった。

美沙はミウリが気に入っていた。所詮隣の芝生のようなものなのだが、その解雇されたミウリをほしいと思った。

が、ここでは横流しのようなことはしてはいけないと、いう暗黙の了解があった。

ましてや同僚の家でうまく行かなかった者を、『うちなら大丈夫』という身勝手な想像はしてはならぬとの掟があった。

ミウリのその後まで、心配する先輩たちは、よう子を恐れてしばらく遠巻きにしつつ、様々な噂をしていたようだ。

『長いことうまく使われていたのに、性急過ぎやしない? ミウリがかわいそう』 と、いうのがおおかたの見方だった。

同じ一年目としては、

『最初から宛がわれたものがもしも合わなかったとしたら、それを改革していくこともまた大切』と庇う必要もあったようだ。

同士である感情もわきあがる美沙だった。

山下文子は、事態を静かにしかし少しだけ批判的に見守っていた。

そのことが、先輩方には受けがよかった。

そしてこのことはいずれ新米たち誰もがかかわる問題の暗示だったのだ。

よう子の積極性はこの頃から出てきて、彼女にとって、この事件はある意味良い傾向に変化していくことになった。

                                     つづく
この小説は2007年から1年間掲載したものを再録しています。
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小夏庵にも→☆

by akageno-ann | 2011-05-21 23:58 | 小説 | Trackback | Comments(1)

Commented at 2011-05-22 09:38
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