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メンサーブたち

Aブロックの住宅地には日本人家庭が8軒あった。
北川怜子と片山美沙はそのブロックに所属していた。

朝10時のメンサーブ会・・昼まで2時間の会合ということで、美沙はちょっと意気揚々と北川怜子と連れ立って、その日の当番の家に向かった。

その家のメンサーブは商社員夫人、子供はまだ小さいかったので、日本人学校とのかかわりはない。

玄関で迎え入れてくれた彼女は若くて美しい人だった。
コックは別にいるそうだが、給仕をしたのは年配の大柄なインド女性だが優しそうな雰囲気があった。
出されたお茶菓子は・・なんと利休饅頭。手作りだという。

久しぶりの日本の菓子にただ感動した。

「皆さん、おはようございます。 無事出産しまして、戻ってまいりました。留守中主人がお世話になりました。子育てもこれからいろいろ教えていただきたいと思ってます。」

「元気な男の子さんのご出産本当におめでとう。このアヤ(給仕をしていた女はアヤという子守だった)さんはしっかりしているし、経験者だから大丈夫。多分日本で新米ママさんやってるより安心よ。」

と、先輩格のメンサーブが口火を切った。

北川玲子は

「子育ての経験はないけれど、小児科で勤めてましたから、何かご心配の節は、いつでもおっしゃってください。」

「北川先生の奥様、ありがたいですわ。そして奥様もお元気にお帰りなさい。」とその日のホストのメンサーブが言葉を続けた。


「本当に、良く帰っていらっしゃいましたね。その後お体は如何ですか?」
と、もう一人が続けた。

「はい。すっかりいいというわけにはいきませんが、お酒も飲んでいいといわれましたし・・・」

と、ここで美沙以外の一同が爆笑した。

どうやら怜子はかなりいける口であることが、有名らしい、と美沙も遅れて微笑んだ。

美沙もここで自己紹介をさせられて、この界隈のメンサーブの一員になった。


話は暑くなるデリーの話におよび、美沙を励ますためか、

「サーバントをうまく使うことが、夏をいかに乗り切るかにかかわりますよ。」

と忠告された。そして自然に、Bブロックに所属する平田家のサーバントが首を切られた話題におよんだ。

「平田先生の奥様は、かなり神経質でいらっしゃるのかしら?
ここの生活はまだ1ヶ月でしょう。そんなに簡単にあのミウリを辞めさせてこれから暑くなるここでどうやっていくのかしら?」

と、噂はさっさと広がっていた。怜子が制するかと思ったが、意外に何も言わずに聞いていることに美沙は驚いた。

「平田先生はなかなか実直な方で、奥さまの希望に沿うため努力されていますよ。」
初めて怜子が言葉をはさんだ。

日本人学校の仲間意識を感じたのか、他の人々もあまり深入りしなかったが、要するに役に立つサーバントを得るのは大変であるようだ、と美沙にも感じられた。

自分のまだ1ヶ月の体験など、何の役にも立たないことなのだ、と思い知った。

その日は只の新客にしか過ぎない美沙だった。

帰りながら、怜子が自分の家に美沙を誘い、二人でインスタントコーヒーを飲んだ。
ここのサーバントが美沙を既に歓待してくれるまでになっていて、とても嬉しくほっとしていた。

「どうだった?疲れたでしょう・・」
と、怜子に言われて、正直に

「はい、疲れました。」と美沙は応えた。

「まあ、最初からあまりとばさないことよ。色々な人がいるからよく観察すること、人の話は先ず耳を傾けておくこと・・・」

なるほど、だから怜子は最初から口を挟まず、人々の話をようく聞いていたのだ、と理解できた。

「どう結論づけようとしても、また何か良い案を出したとしても、日本にいるときほど通らないことがあるわよ。私もいろいろ失敗してるから、そのことはなるべく伝えるわね。でもやはり貴方は貴方の経験で慣れていくと思う。ゆっくりね」

「ゆっくり」

そうなのだ、ここは日本の時間よりゆったりと流れているのだ、と感じていた。
                                     つづく
この小説は2007年から1年間掲載したものを再録しています。
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小夏庵にも→☆

by akageno-ann | 2011-05-25 21:49 | 小説 | Trackback | Comments(0)

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