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やがて戦場になりゆくカシミールで

北インドのカシミール地方は、デリーから避暑地として真夏に移動する休息の地であったが
パキスタンとの抗争に巻き込まれつつあった。
今も容易に行ける場所ではないようで、さびしい・・八ヶ岳高原と同じ空気だった・・

061.gif小説を書いています。
アンのように生きる インドにて

新人の三組は仲良くカシミール地方に避暑にいくことにしていた。
飛行機のチケットは学校の避暑のインド人スタッフが手配してくれ、ホテルも
最高級といわれるオベロイホテルを予約したと聞き、ここデリーのホテルも
ファイブスターとよばれるものは、なかなかの重厚なつくりで併設のレストランも
インド料理、イタリア料理、フランス料理、中華料理とあって、期待できるものであった。

何より、北インドは気温が低いというのが一番の魅力であった。
どんなところなのか、ほとんど知識がないままでかけるのであった。

デリーに住み始めて2ヶ月がたったところで、ほんの少しだがインドで暮らしていけるという気持ちが育ち始めていた。

三組でいけば、きっと見知らぬ土地でもなんとかなるのではないか・・とそれぞれが感じていたのだ。

6月のはじめにいよいよ出発することになった。
行き先はカシミールのシュリナガル。
インディラガンジー空港を飛び立って2時間ほどでつくことができた。
東京から北海道に行くような感じだった。

荷物は一応に日本食のインスタント品を持ち、涼しいことを期待してカーディガンやセーターも荷物に入れた。

飛行機はインディアン航空国内線である。

インドのパイロットは操縦が抜群にうまい、と聞いている。
それは先進国より払い下げた古い飛行機を操縦するからだ、などと噂に聞いていたので
安心はしていたが、飛行機の古さはなるほどと思えるものだったので三組の夫婦は顔を見合わせつつ、無事を祈った。

先ず、天井にひびが入っていて、それもかなり大きな範囲で、その補修をなんとガムテープでとめてある、しかも一箇所でなく。

『いやだ、怖いわ』と、夫人たちは口々にいう。

男たちも女子供を連れての旅ではなんとも不安になってくる。
しかし、ここでだれも『いくのを辞めよう』とは言わなかった。

きっと良い場所に連れて行ってもらえるのだ、という気持ちが先行していた。

デリーの暑さはそこまできていた、と言ってもいい。

機内食はまずくはないが、美味しいとも感じなかったインド料理で、美沙たち夫婦は食べたが、子供連れの二家族は、持参した水筒の飲み物と、スナック菓子を食べさせていた。

無理もないことだった。

だれもまんじりともせず、飛行機内を過ごした。

子供たちも大人の心配が抱かれた腕の強さでわかるのか、静かにしていたが、決して眠りはしなかった。

まるでどこかの収容所にでも運ばれるような飛行だった。

それでも無事についた飛行場は本当にローカルで地上にタラップで降りた。

気温が低かった・・爽やか・・・という文字が久しぶりに全員の肌を包んだ。

それだけでも大きな歓迎だったようだ。

だが、国内であるにもかかわらず、外国人には入国審査のようなものが別に課された。
女性管理官ではあったが、下着の中まで調べられるような屈辱的なものもあって、
驚かされた。

だが、ここでごねても仕方がない。一瞬のことなのでじっと耐える。

日本でも外国人に対してこんなことやってないよなあ・・・と皆それぞれに不思議や不合理を感じつつ新しい土地に足を踏み入れる。

だがここでまた荷物検査が厳しい・・と、いうより、心優しい日本の婦人たちを怒らせるようなことがあった。

バッグの化粧ポーチの中まで見せて、検査官は口紅やボールペンを取り出しては
『プレゼント?フォーミー?』 などと信じられないことを口にしている。

妙に腹が立った美沙は

『ノー』ときっぱり言って自分でポーチをしまった。

その態度が毅然としていたからなのか、一応言ってみただけなのかわからないがとにかく検査は済んで到着ロビーへ入れた。

「すごく感じ悪いところね」と 平田よう子も心は閉ざし気味であった。

男たちもみな緊張感をもって、約束の車のドライバーを探した。

幸いこちらの旅行者のネームプレートを持った男が二人にこやかに手を振った。

日本人の一団体はここではかなり目立ったようだ。

「やれやれ、なんとか旅は続けられそうだ」 と、平田氏が言って、山下家が1台のタクシーに四人で乗り、もう一台に平田夫妻と膝に明子ちゃんを載せ、美沙たちが一緒に乗り込んだ。

デリーのそれよりは綺麗な車だった。

そこで行き先のオベロイホテルを名指したが、とんでもないことを運転手は言い出したのである。

                                     つづく

追記
 
この小説は2007年から1年間掲載したものを再録しています。

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小夏庵にも→☆

by akageno-ann | 2011-06-13 03:18 | 小説 | Trackback | Comments(2)

Commented at 2011-06-13 08:49
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ann at 2011-06-14 10:25 x
鍵コメさんありがとう!
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