一生に一度のカシミール
北インドのカシミール地方は、デリーから避暑地として真夏に移動する休息の地であったが
パキスタンとの抗争に巻き込まれつつあった。
今も容易に行ける場所ではないようで、さびしい・・八ヶ岳高原と同じ空気だった・・
アンのように生きる インドにて
オベロイホテルの部屋は全て1階で、広い中庭に面し、部屋の窓を開けると爽やかな涼風が入ってくる。
「ここは八ヶ岳のようだわ・・」
と、中学校の教員だった美沙は日本の夏の八ヶ岳の合宿施設で感じた高原の風を思い出していた。
すったもんだがあったせいで、昼食をとる前にすっかり疲れ切った三組の家族は、まずそれぞれの部屋でゆっくりしようということになり、三々五々に別れた。
一応3時のお茶を一緒にしようと、約束して・・・・
部屋に入ると落ち着いた高原のホテルの部屋は日本のそれと殆ど変わらず、一瞬で寛げる空気を感じ取ることができた。
美沙は子供のようにベッドに飛び乗って
「あああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・つかれた~~~」とその旅の洋服のまま倒れこんでしまった。
「これが避暑かあぁぁぁ~~~~~」と実感する翔一郎と共にそのまま睡魔に襲われてしまったのである。
「寝れる寝れる・・・」と夢の中で小さく叫びながら、それぞれの睡眠に深く落ちていったのだ。
夢をたくさん見ているようだが・・・あとで思い出すことはできなかった・・・・
体はもうベッドに張り付いたように離れず、時間はどんどん過ぎているとわかっていても目を開けることができなかった。
しかし・・約束がある・・・と思いつつ、時計をみると 三時半だった。
「あなたあ・・・もう時間だわ」
夫もそれはもう深い眠りに落ちているので、美沙は一人でとりあえずロビーに出てみた。
日本人はだれもいなかった・・・
庭を見回しても子供たちも遊んでいない・・・
美沙にはすぐに理解できた。
皆疲れているのだ・・・むさぼるようにこの涼しい空気の中で美味しい酸素を吸いながらゆっくり眠りを楽しんでいる。だからまだだれもここへ出てはこないのだ・・・
美沙はゆっくりひとりで庭を散策し始めた。
少し肌寒いような空気に変わり、この空気はちょうど日本を発つ時の日本の気候だ・・と思った。
庭の向こうに大きなテントがあるので行って見ると、野外のティルームになっていた。
インド人スタッフがにこやかに迎え入れてくれた。
「グッド アフタヌーン・・マダム」
優しい声かけにフラフラと誘われてテーブルについた。
「ウジュ ライク サム ドリンク?」
デリーで日ごろ使っている ジャパニーズイングリッシュとは異なる正しいイギリス英語が耳に優しい。
「ティ プリーズ」
少し気取って、だが思い切り笑顔でオーダーした。
「イエス、マダム」
先ほど空港でもめたタクシーの運転手との会話とは全く違う、客への丁寧な英語だったのだ。
美沙は一人で味わう初めての北インドの空気と一人のマダムとしてのホテルライフを満喫していた。
「美沙さん、楽しそうね・・・」
お茶を飲んでいると、平田よう子がやってきて、笑顔で横に座った。
「よく眠れたわね・・・今皆さん集まりましたよ。」
「私も寝過ごしたと思って急いで来てみたけど皆さん疲れていたのね。」
と、美沙もよう子に紅茶を勧めた。
その午後は皆それぞれにゆっくり過ごす事にして、よう子と美沙はしばらくその場に身を置き、
ホテルの部屋の前の庭のブランコで幼い子供たちがよう子の夫や山下一家と一緒に遊ぶ姿をまるで一幅の絵画を見ているように穏やかに眺めるのだった。
つづく
追記
この小説は2007年から1年間掲載したものを再録しています。
小夏庵にも→☆
by akageno-ann | 2011-06-18 09:15 | 小説 | Trackback | Comments(0)


