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ハウスボート イン カシミール

カシミールの過ごし方には日本人には日本人の、一応セオリーがあるようで、オベロイホテルで過ごしたあとは、付近のダル湖かナギーン湖というあまり美しいとはいえない湖にこれまたあまり綺麗とはいい難い船上ホテルが何隻もならんでいる、そこへ宿泊するのも一考らしい。

その一団も その中で、世界の有名人も泊まるという一隻の大きな釣り船風のホテルを三組で借り切った、と聞いていたので、ホテルから例のタクシーでダル湖に向かった。

何が起こるかわからない・・これぞミステリーツアーだと大きな声で言い切れるインドの国内旅行。

予想に反さず・・予定通り、次のお約束は・・あった。

タクシーが川岸について、三組の家族は荷物共々下ろされ、向こう岸近くに停泊する船宿まではシカラという渡し舟で川を渡るという・・・風情があるようだが・・なんとなく怪しげな雰囲気が漂っていた。

川岸にはとにかく浮浪者のようなインド人の男がたむろしていて、別に危害を加えそうな雰囲気はないのだが・・・きた来た来た・・・という感じで一つの荷物に3人くらいずつが一斉に群がる。

その浅ましいまでの仕事の取り合いを眺めているわけにはいかない・・自分の荷物の確保と共に誰に頼むかを即決せねばならない。

北インドが人が悪い、とまで言わせるのは・・・・この職業難があったのだ。

観光客相手の仕事など、そうたくさんわるわけでなく、ひとたび捉まえた客をそう安々と手放せるわけもない。

しかも、日本人は金離れがいい、チップや物をくれるのだ。

しかもこの子連れの一団体はかなりリッチな旅をしているようだ。

と、彼らはピラニアのようにくいついている。

平田よう子は もう  うんざりだといわんばかりに泣き始めた。

「パパ、もうだれでもいいわよ・・早くして!!」

「はい、もう貴方と貴方・・あとは帰りなさい」と山下文子は二人を雇った。

一番綺麗気な男だった。

片山翔一郎は憮然として

「自分で運ぶからいい」といって荷物を奪い返した。

別に捕られるわけではないが、どうなるのかは流石に不安になった。

平田久雄は申し訳なさそうに一人を選んであとはお引取り願った。

だが外されたインド人が暴動を起こすわけでもなく・・静かに散っていったことが逆に不思議だったくらい、あっけなく彼らは去っていった。

しかしこの手のやりとりはここにいる限り永遠に続くのであったが・・・

シカラはあまり大人数は乗れないので、三艘にわかれてそれぞれの荷物と一緒に乗り込み、泊まり先のハウスボートに到着した。

若い男と、その召使いをしているような初老の男が待ち受けていた。

大歓迎をするような手振りで。

先ず船内ツアーを行った。

しかしどうも平田よう子などはすぐにもオベロイホテルに帰りたいような顔をしていたが、
誰一人不満を言わないので、かろうじて抑えていたようだ。

片山美沙は興味津々に各部屋を覗いている。

その彼女を少々嘲笑うように見て、山下文子は毅然と

「この一番大きな部屋をいただいていいですか?」

と、語った。

平田家も片山家も異存はなかった。

その次に問題になったのはその夜の食事だった。

台所は岸にある家の方だ、というので女たちは子供を夫たちに任せて
見学に行った。平田よう子はしっかり日本米を持って来ていた。

「今日はこれを炊いてもらいましょう。」

インドの主食に米はあるので、釜はある。簡単なものだが日本と同じように炊くことを知っていた。

台所には先ほどの若い男の妻なのか、若くて小奇麗な女がいて、にこやかに迎え入れた。

インドのカレー料理の香りがしていた。

すでに用意しているのだ。

主菜は鶏肉でチキンティッカという焼き鳥だそうだ。

まあ痩せてはいるが、鶏が捌かれていた。

この状況にも日本の女たちは既になれていた。

米は自分たちで炊かせてほしいというと、快く場所を提供した。

水はミネラルウオーターを頼んだ。

気休めであっても日本米を完全に炊き上げたい思いからだったのだが

ご飯をミネラルウオーターで炊くことが果たしていいのかどうかわからなかった。

ただただそこの水が信じられなかった。

そんな3人の女のやっていることをオーナーの男はニヤニヤしながら見ていたのである。

                                     つづく

追記
 
この小説は2007年から1年間掲載したものを再録しています。

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小夏庵にも→☆

by akageno-ann | 2011-06-19 21:24 | 小説 | Trackback | Comments(1)

Commented at 2011-06-20 14:50
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