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老育  一人の女性との出会い

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「かけがえのない日本の片隅から」

老育


その日、私はコーラスのレッスンを終えて、暑い日差しの下、遅めの昼食の準備のために家に向かっていた。
公園の前に差し掛かったところで、一人の女の人が自転車をちょっと降りた、という形で佇んでいた。笑顔がみえた。私の方を見ている。思わず会釈をした。

「あの、すみません、救急車を呼んでいただけませんか?」

「え?」

突然の言葉に私は驚いて近づいた。

「どうしたというのですか?」その人はまるで自転車をちょっとおりて一休みしているような形だったのだ。私は一瞬不信に思った。

「ここまで病院の健康診断をしてきて、坂を下る前にちょっとスピードをゆるめて片足をついタラ、そのまま足がぐにゃりとなって、このまま動けなくなったんです。多分骨折をしたのかもしれません。」

そのよどみない言葉に携帯電話を持っていた私はすぐにダイヤルしようとしたが、電池が殆どなくて、目の前の自宅に急いで受話器を取りにいった。

舅にも状況を話したが、いつもの私のお節介だと思ったらしく冷ややかな反応だった。

とにかく救急車だ。その人は名前と年齢と住所をしっかりと話してくれた。

救急車がくる少し前に、ガスの計測をしていた若い女性が声をかけてくれて、救急車に手を振ってくれた。7分できてくれた救急隊員は親切だった。

事情を簡単に説明したら応急処置のあとに指定した病院に向かった。

家族は遠方で昨年ご主人を亡くし一人暮らしだという。

すぐに連絡をとるようにいった。自転車をしばらく預かることにした。

内科の病院の帰りだというから本人が保険証もしっかり持っていたようだった。

77歳だといった彼女のしっかりとした姿は見事だった。

ただあまりにしっかりとしていたので、通り過ぎた車は何台もあったらしいが、車を止めるほどの異変を感じなかったのだ。

心配したが、救急隊員は私たちに礼をいい、彼女もまた感謝の言葉を何度も言って車は走り出した。

その間に近所の人々も心配して出てきていた。

                                     つづく
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by akageno-ann | 2011-07-07 23:22 | 小説 | Trackback | Comments(1)

Commented by nanako-729 at 2011-07-08 00:25
annさん、こんばんは!
いつか自分の身近にも起こりそうなお話
人ごととは思っていられませんね!
annさんの声かけでその方も随分と心強かったでしょう…

心が温かくなるようなお話、ありがとうございました!



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