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老育 一人住まいのその人

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「かけがえのない日本の片隅から」

老育

自転車で怪我をした女性は高齢で一人暮らし、1年前にご主人を亡くされたという。

一瞬見せた寂しげな表情はあったが、きわめてしっかりとした対応に救急隊員も安堵していたかにみえた。

その後を心配したが、病院を訪ねたりしたら気を遣わせることになるから、そのまま数日を過ごした。近隣の人々も後になって救急車の理由を聞きに来たりしたから、皆遠巻きに心配されていた。

一週間が過ぎたころ、外出から帰宅すると、玄関に中年の男性と杖を突いた女性が立っていた。

タイミングよく今いらした、という。

正に先日の自転車の人だった。

笑顔で近寄ってくるその足は軽く引きずっていた。

「まあああ・・大丈夫ですか!?」一瞬私は彼女の快活さから誰?と思ったほど印象が違ったが、その足取りで分かった。

「あの節は、本当にありがとうございました。」

やはりしっかりとした声だった。

白塗りのセダンの車からお嫁さんも出てきて、にこやかな挨拶があった。

立派な菓子折りをいただいてしまった。

骨折には至らず、筋違いで数日の入院で済んだという。

うれしそうだった。 お嫁さんが預かっていた自転車に乗って帰って行った。

あの日駆けつけてくれた近所にもそのことを話、お菓子をおすそ分けした。
それほどたくさん入っていた。

それから数日してちょっと気になって、彼女の住む住宅地と名前から家をみつけて訪ねてみた。
田舎からのものがあったので、ほんの少しお土産を持って。

訪ねあるくうちに、ご主人ご存命の時は、染物屋さんだったそうだ。

立派なお宅で庭が見事だった。その佇まいがあまりにきちんとしているので、彼女のあの日の姿とぴったり重なった。

そして息子さんのもとにいらしたのか、雨戸がしっかり立てられていた。

ふとほっとした。

またもうしばらくして訪ねてみよう、と思った。

自分の生活をたった一人であれだけきちんとしている様子が垣間見れて、とても学ばされた。
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小夏庵にも→☆

by akageno-ann | 2011-07-10 01:06 | 小説 | Trackback | Comments(1)

Commented by nanako-729 at 2011-07-10 19:22
こんにちは!
先日のお話、まだ続きがあったのですね!
こちらまでほっとするような…良かったです!

今日も暑かったですね!
この暑さとたびたびの余震…まだまだ心が落ち着きません
annさんも無理されないように、どうぞご自愛くださいね!
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