雨上がりに




その3
翔一郎は目覚めた。
と、いうより彼はやっと言葉が発せられたのだ。
「美沙、悪い!」
第一声はこれだった・・・・
最初に気づいたのは理子だった。
「おとうさん、おとうさん、わかった?お母さんもいるのよ・・」
「理子!わかるよ・・」
そのまま翔一郎の目から涙が流れた。
ツーーーーっと彼の頬を流れるその一筋はその場にいた美沙と理子の心を
この世で最上のやさしいものにしていた。
「あなた、おはよう・・・」
美沙はことのほか明るく語りかけた。
そうしないと泣けてしまいそうだった。
理子はすぐに祖母の信子に携帯で電話していた。
「おばあちゃん・・お父さんが目覚めました」
そういって電話を翔一郎の耳元に近づけたが
そのとき彼はまた眠っていた。
「と、思ったけど・・またねちゃった・・でもちゃんとしゃべったよ!」
信子はとにかくすぐタクシーで出かけると言ったらしい。
「おばあちゃん、焦ってきちゃだめよ!気をつけてね」
そんな気遣いも理子はできるようになった・・と美沙は目をほそめていた。
翔一郎は安心したのか、涙をぬぐってあげるとほっと少し微笑むようにして
再び眠りについた。
「お父さん、とても疲れたと思う・・きっとしゃべりたくてしかたないのに
言葉を出すエネルギーを出すのに時間かかったのよ」
「そうねえ、私たちのうるさいよびかけ聞こえてたのね」
よかった・・ほんとうに・・・
ただそれだけの言葉が二人の胸に迫っていた。
そしてこれからがまた新たな試練があるだろう。
しかし目覚め家族を認識できたことはまず奇跡だった。
生きていること、そして目覚めたこと・・・・・。
そのことにただ感謝する美沙と、父を失わずにすんだ娘の理子の笑顔がそこにあった。
つづく
by akageno-ann | 2024-05-29 21:18 | エッセ- | Trackback


