ちどり草





その7
翔一郎はマイペースではあるが、回復しているようであった。
一つのきっかけは彼の得意とするイラストだった。
始めはアニメのトトロやミッキーマウス スヌーピーなど理子がリクエストすると
何も見ないで、オリジナルに近いものを模倣したように描いていた。
美沙は、インドの生活を少し思い出したような夫に、
ふとその頃をもっと思い出させたくて様々なインド時代の写真を見せた。
その中でも翔一郎が特に興味を持ったのは、翔一郎自身がデリーの街角で撮影した
親子の牛の写真だった。
「ああ、この牛を撮った日のことをよく覚えているよ。
ラジパトというマーケットだった。
暑くて自転車で買い物に行ったが、フラフラしたよね」
そういう翔一郎に美沙は
「そうそう、私はサングラスのメタルフレームが熱せられてこめかみから熱が伝わって。
驚いて急いで外したの。
暑かったわね~~あちらに渡ってすぐの頃でなんでも物珍しかったのよね」
「この子牛のように理子は可愛い赤ちゃんだったよ」
そう言うのだった。
理子は、父にインドの風景を描いていってほしいと、その時思った。
自分の知らないインド、そこに両親が住んでいたこと、
そこでの生活の様子にとても興味が持てた。
美沙もまた、あの現地でなかなか絵を描こうとしなかった翔一郎が
今こうして描き始めたことに不思議な時の流れを感じていた。
人間はこうしてそれぞれに人生を紡いでいるのだ、
とある感動に似た感情が湧いてくるのだった。
第四章につづく
by akageno-ann | 2024-06-12 21:00 | エッセ- | Trackback


