明後日には
映画 The Day After Tomorrowを見ました
その2
美沙はデリーで生活していた頃をさざ波がおし寄せるように思い出していた。
理子はデリー時代の両親を全く知らずに生まれてきた。
美沙たちが日本での養育に打ち込んでいたせいもあるが、
あえて彼女にデリーのことを知らせる機会がこれまではなかった。
だが翔一郎を見舞う平田よう子夫妻の娘メイ子の出現によって、
インドのデリーの暮らしを少しずつ話すようになっていたのだ。
その夜もまたメイ子を囲んで三人で気楽なファミリーレストランで
食事をしながらデリー時代の話になっていた。
「美沙おばさんは優しくて私を心から可愛がってくださったのを、よく覚えています。
おじさんは私のことを絵に描いてくださいましたよね。
今でも小さな額にいれて部屋に飾ってます」
「あなたは幼かったのにデリーのこと覚えているのね。
インドはやはり強烈な印象なのかしら」
理子は二人の話を興味深く聞いていた。
その夜はメキシカン料理フェアをやっているこの店で、平田夫妻が今派遣されて、
頑張っている中米にも思いを馳せた。
トルティーヤというインドのチャパティにも似たものに、
アボカドのディップと野菜を巻いて、少し辛めのソースをつけて食べる。
辛いものが好きな理子は初めての味にも臆せず、喜んで食べていた。
食が合うと、この三人は話も食も弾んで傍目からも実に愉しそうな
親子の食卓のようになっていた。
メイ子は心をすっかり開いている。
「美沙おばさん、母とは喧嘩をしたのですか?」
唐突のようだが、メイ子はこのことは一番聞きたいことであった。
二十年たった今、たとえ喧嘩をしていたとしても、それは時効になっている、
と美沙は心が軽かった。
「喧嘩はしていないわよ・・本当よ。でも最初にとても仲がよかったので、
最後のほうは心が離れていることは周囲の人にもわかったようだったの。
私はそれが残念だったわ・・」
「母は、美沙さんが羨ましかったんだわ。子供がいなくて自由だって・・
いつも言ってたから・・でも、それって私を邪魔にしてるってことだもの。
すごく寂しかったです」
美沙はそういうメイ子に驚いて
「メイ子ちゃん、それは違うわよ。今も覚えているのは デリーに赴任する時の
飛行機で、抱っこされていた貴方をずっとしっかりと抱きしめて、
これからの様々な不安にかられていらした姿よ」
メイ子は『え?』と耳を傾けてきた。
「多分あなたのご両親はインドでの生活の中で、あなたが病気になったり
怪我をしたりインドの人を怖がらないかなど・・それはたくさんの心配を
されていたと思うの。現に日本からの荷物の半分以上があなたのための
ものだったのよ。お部屋で遊ぶ滑り台やキーボード、
三輪車も安全なものを持っていらしていたの」
理子は美沙の言葉を静かにかみしめるように聞いていた。
「母は私といつも父を取り合うようにしていたんですよ」
メイ子はこれは言っておきたいとばかりに口をはさんだ。
「そんなこともあったわね。お父さんの平田先生はご自分の意志で
在外のしかもインドの日本人学校に派遣されることになって、
連れて行くあなたたちに不自由な思いをさせられない、
とそれは責任感強くお持ちでしたから」
美沙はこう話しながら自分の中の思いをここでまた整理しているようであった。
つづく
☆☆今日は長くなりました。お読みいただきありがとうございます。
by akageno-ann | 2024-06-13 23:17 | エッセ- | Trackback




