雨の1日



その6 リハビリ
翔一郎のリハビリは自宅に帰ることを目標にプログラムが組まれ、
先ずは片足で立ち上がる練習を何度も何度も日を置いて行っていた。
理子も美沙も、まもなく自分たちが中心になって行う介助を始め、
少し不安に思いつつその訓練に付き添っていた。
リハビリ病院では屈強な若者が理学療法士としてついていてくれるので、
安心して見ていられたが、自分たちだけで体の大きな翔一郎をきちんと
補佐できるのか、など見れば見るほど心配になっていた。
介護に関する仕事にはいろいろなジャンルがあり、
理子はスタッフの名札を見ながらその職種を学んでいた。
今、父親翔一郎に一番大きな影響を与えていたのが、作業療法士と理学療法士だった。
翔一郎の病状はすでに脳の機能回復については一つの安定を見ていた。
脳卒中によって失われた機能を少しでも精神的に励まし、あとは機能回復の
リハビリによって呼び覚まそうとするもので、時間と根気が必要であった。
作業療法士は、医師の指導のもとに、手工芸、園芸、ゲーム、
など本人の好みにしたがって様々な作業を行わせ、患者の意識付け、
精神の安定を図ることに力を注いでいる。
また理学療法士は実際に立ったり座ったりから始まって、
日常生活の自立を促すための訓練とマッサージを行ってくれていた。
この様々な分野の細分化のお陰で、一つ一つ患者の家族は
これからの家庭での生活状況の中に組み入れることをじっくり考えることができた。
『あまり畏れることはない』といつもスタッフに励まされ、
理子も積極的に父翔一郎の介助を行ってきた。
美沙よりも時には乱暴なほど、『ひょい』と翔一郎を抱えて洗面の手助けができていた。
女の子なのでトイレの介助だけはどうしようか?と美沙は考えたが、
この一番自然な生理現象のことこそやらせておかねばならないと思っていた。
つづく
by akageno-ann | 2024-06-18 23:20 | エッセ- | Trackback