予行演習
その5
『アンの夢の家』を読み進める美沙は若い頃には
アンとギルバートの新婚生活、そしてミスコーネリアとジム船長という
隣人との関わり、レスリー・ムア と オーエン・フォードとの恋に
心を奪われたが、こうして読み返していくうちにレスリーの
夫ディック・ムアの病状に関心をもった。
彼はもともとレスリーを略奪するように結婚し、
わがままの限りを尽くしていたが、航海に出て行方知れずになっていた。
しかしジム船長が航海中に偶然彼を見つけ、レスリーの元に連れ帰ったのだ。
ディックはそのとき、記憶を失い、レスリーを母親のようにおいかける
幼児のような能力しかなかった。
そのディックと十三年の間、レスリーは自分の心を封じ込めて生活したのだ。
そこに医師ギルバートと新妻アンと知り合い、新たな運命的な人生が展開する。
内容はわかってはいても美沙はその先を読むことに大きな期待感が募るのを覚えた。
百年も前の物語であってもおそらくその内容は、
作者モンゴメリーの周辺に起こった事実があったはずだ。
美沙は今この物語を作者の空想だけではないと確信していた。
そう考えているうちに、「様々なことに夢をもつことはできる」
と思えたのだ。
幸い美沙の住む住宅街の近隣の人々とはすでに
三十年近い付き合いになっていた。
皆それぞれにそこに根を下ろし、良い年を重ねている。
ご夫婦二人だけになったり、ひとり住まいの婦人もいる。
その人たちと日常の会話をし、時には車で一緒に買い物もし、
いただきもののおすそ分けごっこもし、と
義母信子と供に関わってきた、人々。
子供のない頃は随分と嫁として辛い思いもあったが、
理子という子供ができてからはその子を通しての付き合いも多くなっていた。
理子もよくご近所の人に挨拶をする子として、声をかけてもらっている。
父親翔一郎への見舞いの言葉も心からのもので理子は勇気付けられていたのだ。
美沙は、退院する夫翔一郎を迎えての新しい隣人との生活にも、
そうした人々の心を信じようと思えた。
つづく
☆☆☆ただ今旅行中です。戻りましたら続きを掲載させていただきます。
ご高覧に心より感謝しています。
by akageno-ann | 2024-06-27 06:32 | エッセ- | Trackback