旅の疲れ??




その7
退院に際して一番大切なことは何かと考えると、それは家族の結束のようだ。
そう理子は感じていた。
大きな悲しみから、病気になった翔一郎を受け入れられない時期もあった
理子の祖母信子も家の改装の監督をしつつ業者と会話をしながら、
自分の役割はまだあると感じられたようで、まもなく八十歳に手が届く
というのに足腰も元気でしっかりと生きていた。
近所の人々にも翔一郎の退院を話し、いろいろな障害者に対する
市の対応についても積極的に取り入れようとしていた。
さすがに四十年以上この地に住んでいる信子は知り合いや友人が多くいて、
こういうときは皆親身になってアドバイスしてくれているようであった。
中にはもちろん好奇心で近寄ってくる人もいたようだが、信子はそういう人にも
「彼女は本当は良い人なの」と心配する美沙にその人を庇うほどのゆとりがあった。
八十年の歳月を生きるというのは、様々なことを許せるようになるのかもしれない、
と感じる美沙だった。
一日おきにヘルパーの人も来てくれる事になり、それだけ翔一郎が重傷ということなのだが、
その人にあってみると四十代後半の元気な婦人だったのでほっとできた。
翔一郎の体格が大きいので、支えるにあたってその介助する側の体力の如何は
大変重要なことだったのだ。
それでも実際にどれほどやってもらえるのかは、始まってみないとわからないことだった。
ここで取り越し苦労はやめよう・・・と美沙も信子もそれぞれに思っていた。
家族は三人いるのだ、と強く感じていた。
そこに月に二度ほど病院に見舞ってくれていた平田メイ子は、
翔一郎の退院を理子からメールで知らせられたらしく、
病院に現れてその祝いの言葉と自分も何か手伝いたい、と申し出てくれた。
「メイ子ちゃん、ありがとう。もしかまわなかったら、
理子の家庭教師がわりに遊びにいらしてね」
美沙はそう彼女に頼んだ。
「はい。喜んで伺います。それから退院の日はいつですか?私お手伝いに来ますから」
そう熱心に申し出てくれた。
美沙はこのメイ子の本当の優しさに心が素直になれた。
「いいのかしら・・本当はおことわりするべきなのに・・その申し出とても嬉しいの」
「もちろんですよ。私少しは役に立てますよ」
メイ子は笑いながら応えて美沙の手をとった。
つづく
☆☆ご高覧ありがとうございます。蒸し暑い夏です
熱中症に気を付けてください。☆☆
by akageno-ann | 2024-07-03 15:59 | エッセ- | Trackback