暑さお見舞い申し上げます

その日はあっと言う間に来た。
東京から近郊都市の自宅までは車で渋滞がなければ一時間半ほどで帰り着く。
病人である翔一郎を乗せるのだから、なるべく道路事情の良い時間帯を、
と考えて午前中の十時出発にした。
前回救急病院からリハビリ病院に移動する時は意識がはっきりしていない
翔一郎を不安いっぱいで車に乗せたことを思い出していたが、
今回は翔一郎の意識はしっかりしている。
家に帰ることも本人が楽しみにしている。
そのことが迎える側をほっとさせている。
家では翔一郎の母、信子が一応準備万端整えて待つこととした。
今日の昼食は自宅で久しぶりに四人揃うのだ。
それは理子にとって本当に嬉しいことだった。
家に父がいる、きっと気まずさはなくなるだろうと、若い理子にはそう思えたのだ。
美沙にはもちろん複雑な思いがある。
しかし今はこの若い理子の純粋さに心を委ねていこう、
そう思えたらほんのちょっと喜びが増した。
メイ子は大学は春休みだからと早朝にも関わらず八時半には病院に到着していた。
「おはようございます。今日は私はここでお手伝いしてお見送りしますね」
病院の退院はかなりの荷物の整理があるのでその申し出は大変心強かったのだ。
美沙は、心から礼を言って、まだうら若い彼女の気持ちを素直に受けた。
「本当にお世話になって今までありがとう。また改めて食事にでもお誘いしますね。
理子へのアドバイスにも感謝しています」
メイ子はにこやかな笑顔で応えた。
「美沙さん、どうぞこれからはお宅へも伺わせてください。
一回の乗換えで行ける距離です。今日はここで失礼しますが改めてお宅へ」
「でも、あなたの大事な時間をこうしてあまり割いてはいけないわ」
「私、やはり一人暮らしは寂しいのです。だから私のためにも」
そう訴える彼女の目は真剣だった。
そうして話しながらも翔一郎の退院の準備は進められていった。
看護士が迎えの車の到着を知らせてきた。
つづきます
by akageno-ann | 2024-07-04 15:31 | エッセ- | Trackback





