雨を待ちながら






その6 理子の力
いよいよ在宅介助をうけることになった。
一番大事なのは自宅リハビリだと美沙は考えていた。
家族だけでは徹底できないリハビリに 他人が介入することで、
少しでも翔一郎のやる気を起こしてもらいたかった。
幸いにして若い男性がきてくれることになって、体力的に安心できた。
翔一郎を支えるというのは容易なことではなかった。
家の廊下にはリハビリ用の手すりをつけ、
少しでも足を前に出す訓練をさせたかった。
翔一郎本人の気持ちはどれほど前に向いているのだろうか?
美沙は測りかねていた。
あの負けず嫌いだった彼が信じられないほど、のんびりと構えているのだ。
それが脳の損傷によるものなのかもしれない。
病人を徒らに励ましてはいけない、というが、
様々な人々がどうしても適当に「頑張れ」という激励をしてしまう。
しかし、そんな言葉も馬耳東風のようなそぶりを見せる翔一郎がいた。
「頑張る」と言っても、行動するという能力に繋がっていないのだ。
美沙は理子に精神的なリハビリを頼むことにした。
「理子ちゃん、お父さんは運動することより、貴方と競って
絵を描きたいかもしれないわ。休みの日は一緒に同じものを
写生するのはどうかな?」
その申し出に理子は
「うん・・私もそれがいいんじゃないかって思うの。
一緒に何か描いて見るね」
そう素直に応えてくれた。
『この子はどうしてこう伸びやかなのだろう?少しも哀しさを
持っていないように思うのは思い過ごしだろうか?』
そんな気持ちもよぎるのだった。
理子が新しい人々との出会いに、その素直さで接し、
その人々に可愛がられ、良い関係を作っていくことに
大人たちは援けられていた。
美沙はデリー時代のサーバントのシャンティを思い出した。
彼女は忠実で優しい家事手伝いを毎日続けてくれていた。
あの頃 美沙に子供がいればどんなにか可愛がってくれたであろう。
子育ての上手なシャンティにこの理子を会わせたいと、思うのだった。
つづきます
※読んでくださり本当にありがとうございます。
立ち寄ってくださることが大きな励ましです※
by akageno-ann | 2024-07-14 19:08 | エッセ- | Trackback


