昨日の朝の空
その3
本多医師の歌が終わり、宴の方はデザートになった。
理子とメイ子が用意した、きれいな苺をふんだんにあしらった
デコレーションケーキにたくさんのローソクをたてて、
美沙は翔一郎とその母信子の二人で吹き消すようにいざなっていた。
本多氏の合図でハッピーバースデーの歌を全員で歌った。
翔一郎も一緒に歌った。理子は翔一郎の傍らにたって
楽しげに歌っていた。
このときの伴奏はメイ子が行った。
このパーティは出席する人々の心が打ち解けるような
演出が意図的に図られていた。
美沙はパーティの人選をいつも大事にする。
一つには初対面同士の人々を敢えて招いている。
その方が新しい関係の中から思いがけない和やかさが
生まれることをデリーでの生活の経験から知っていたのだ。
はじめはいくらか ぎこちなさはあっても、そこに美味しい
食事と酒などが素晴らしい媒体になり、会話は次第に弾むのである。
初対面の出会いは会話に新鮮味がある。
その新鮮な思いが後味の良さを引き出すのだ。
しかし、もちろんそこに美沙の心配りが意図的にあるのだ。
それはインド時代に培ったものだった。
パーティの最後にインド時代の翔一郎と美沙の生活の
記録をビデオで見せた。
あの頃何気なく撮っていたビデオだった。
ファミリーパーティの様子もあれば日本人会の運動会や、
忘年会の様子もあった。
その一つ一つを見ながら、翔一郎は病後初めて
懐かしそうな表情を見せていた。
つづきます
※発汗した分水分補給をお忘れなく
ジッとしすぎないように気をつけてお過ごしください。※
by akageno-ann | 2024-07-24 07:24 | エッセ- | Trackback