豪雨と空


その2
平田メイ子の片山家に同居したいという申し出は、
美沙を驚かせたばかりでなく、もちろん彼女の両親、
とりわけ母親のよう子の度肝を抜くような話だった。
メイ子はメールで南米に赴任中の両親にこれまでのいきさつと、
片山美沙をはじめとして片山家の人々が大変好意的で家族のようで
あることを彼女なりに丁寧に知らせてはいた。
最初にそれを読んだ父親の平田氏はメイ子の気持ちが痛いほどわかっていた。
メイ子は幼少の頃、デリーで片山美沙を親戚の大好きな
叔母さんというように慕っていたのだ。
幼い頃に出会った、優しい大人の女性は幼い女の子には
そのまま憧れに繋がるものだ。
美沙はそうなって当然の心優しい女性だった。
今その人の夫でかつてデリーで平田氏の同僚だった片山翔一郎が
かなり重い病に罹っていたとしても、おそらく片山家の暮らしには
暖かな団欒があり、そこに娘メイ子が溶け込んでいても不思議はなかったのだ。
だが、そのことを妻であり、メイ子の母であるよう子に
どのように知らせるべきか少々悩んでいた。
しかし急を要することであり、メイ子に返信し、
片山美沙とも話をしなければならないと思った矢先に
美沙から国際電話が入った。
休日の早朝だったから、当然のごとく平田自身が電話に出て、
美沙と長い無沙汰を互いに詫びた。
「平田先生、メイ子ちゃんには大変お世話になっているのですよ。
優しい聡明なお嬢さんで、本当に素晴らしいです。
でもこのほどのお申し出はあまりにこちらが
ご迷惑をかけるように思えて、先生とよう子さんは
どのようにお考えですか?」
と、美沙は率直に話した。平田氏は少し慌てて、
「いや、美沙さん、そちらに無理をいっているのではないのかな、
メイ子は?実はまだそのことをよう子が知らないのだ。
今これから話すのでこちらから折り返しお電話します。
ただ一つ聞いておきたいのは、メイ子の同居は可能なの?」
インドで三年間同じ時期を苦労して過ごした仲間は
長い無沙汰のあとでもそれは何故か不思議に親しみが湧いていた。
その問いに対し、美沙は比較的簡単に答えていた。
「私の方は家族で歓迎ムードなのです」
それだけ聞けば今の平田氏には十分だった。
「では後ほど」と言って電話は一度切れた。
つづく
※ 8月に入りましたね
この夏の日本の暑さを危惧します※
by akageno-ann | 2024-07-31 17:23 | エッセ- | Trackback