立秋 2024
その6 同居
いよいよメイ子が同居し始めた。
一番嬉しそうなのは、やはり理子だった。
長いこと一人っ子の暮らしだったので、大好きな姉のような
めい子が訪れて、すでに高校生の理子は控え目ながら喜びを
態度に表している。
話をすることが嬉しそうで、食事中の会話は明るいものになった。
翔一郎が帰宅してから翔一郎中心にセーブされた食事中の
会話だったが、そのときはめい子が中心になっていた。
理子のために良かった、と美沙はこの決断に安堵していた。
「メイ子さん、お休みの日はどうするの?」
という理子の問いに、メイ子は
「買い物に出かけたり、家の掃除をしたりして過ごすのよ」
と答えると、
「デートはしないの?」
と理子はあっさり聞いた。
美沙も年頃のメイ子のその辺の様子は知りたかった。
「あはは・理子ちゃん・・はっきり聞くのね。
でも残念ながらそれはまだないの」
「でも、メイ子さん素敵よ」
そう理子は続けた。
「そうね、メイ子ちゃん素敵よね。
でもお付き合いしている方はないのね?」
と美沙はあまりしつこくならないようにそこで話を切った。
気になることではあるが、まずは彼女を信頼することだ。
そう感じていた。
両親の平田夫妻のことを考えれば、その辺のこともさりげなく
気をつけてやりたい、と保護者の思いももっていた。
だが、メイ子は既に成人となっていたのだ。
めい子も明るく食卓で話をしてくれた。
「よくインドから、一緒に旅行しましたね。
シンガポールは特に楽しかったですね」
「シンガポール、アジアの小さな国?どんなところなの?」
と理子が聞いた。すると翔一郎が
「美味しいものを食べられ、買い物の天国だったよ!」
と、明るく答えるのだ。
理子は羨ましかった。素直に
「いいなあ、みんなでいきたいなあ!」
と答えた。
祖母の信子が会話に加わり、
「飛行機で行く場所は無理だわねえ」
と少し残念そうに付け加えた。
が、そのとき理子は明るく補足するのだった。
「おばあちゃん、船で行く手があるでしょう!」
皆一瞬唖然として、そして微笑んだ。メイ子がすぐに
「ほんとクルージングって素敵ですよね」
皆で微笑んで、ふと同じ思いで夢をみるような目をしていた。
クルージング、そうだ、体が不自由でも全て
閉ざされているわけではない。
もしかして、明るい未来も切り開いていけるのだと、
ふと素直に思える美沙がそこにいた。
つづく
※この夏クルージングに出かけられた
友人の話を聞きました。足が弱いのでその旅を
選ばれたそうですが、とても楽だったそうです
私もいつか行ってみたいと思いました※
by akageno-ann | 2024-08-09 07:03 | エッセ- | Trackback