お米??
第九章 その1
平田メイ子が片山一家に加わってから変化したのは、
皆それぞれに口数が増えたことだった。
他人が一人入ることで、しかもその人が優しい心を持って、
気遣いをしてくれていることで皆が心を寄せ始めていたのだ。
メイ子はとても明るく年齢は二十代前半であるにも拘わらず、
人の心をくんで行動できる女性だった。
これは彼女の両親の特に父親の影響に違いなかった。
美沙は教職についていた頃、自分を含めて二十代の
初任時代の他への気遣いの足りなさを感じることが多く、
ましてや最近の若い人々の様子を見ていると、マイペースを
通す人も多いことを少々疎ましく思うことさえあったのだった。
だが、メイ子は美沙の感性に似たものを持っていてくれた。
そういう感性同士が引き合って、この状況を作り出したのかもしれなかった。
会話に理子はもちろんのこと、療養中の翔一郎、
そしてその母信子も自然に加わり談笑するようになったのだ。
それはとてもありがたいことだった。
それぞれがメイ子に自分のことを知ってもらおうとする
意欲を見せたからに他ならない。
家庭生活においても、必要なのは個々の意欲だった。
翔一郎はもちろん、少しでも麻痺している左足と腕を
快復させようとリハビリに励み、もつれる舌を気にしながらも
積極的に会話に加わろうとしていた。
そのことは間違いなく脳の活性化に役立っていたのだ。
立派な医療療法士が来てくれることも大事だが、
日々のやる気を喚起することの重要性を皆が感じていた。
そして齢八十になる信子は常に明るくなった。
始めは少し翔一郎の病を他人に隠そうとしていたが
今はこの状況のままを受け入れることができたようだった。
そしてその思いが全ての親戚にも翔一郎を会わせようと
する意識に影響した。
それはこれからの片山家に一番必要なことであった。
信子は優しい顔でこう提案するのだった。
「この初夏の良い季節にみんなで高知へ行きましょう。
私ももうこの年では何度も行けないと思うの。
親族にも会っておきたいし、私が旅行代を出すから
二泊三日くらいで良い旅をしましょう。
もちろん構わなかったらメイ子ちゃんも参加してちょうだい」
あまりに唐突な発言ではあったが、美沙は明るい顔で姑信子の顔を見ていた。
つづきます
昨日BSTBSで「美しい日本に出会う旅」で高知の後編を
見ました。行ったことのない久礼という港町
そういえばこの春大阪から夜行バスで辿り着いた
窪川の隣町・・・今度は訪れてみたいです。
by akageno-ann | 2024-08-15 10:11 | エッセ- | Trackback