台風一過
第九章その1のつづきです
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片山信子は大正時代の後期に高知市内の薬屋の
次女として生まれた。
兄弟姉妹は五人ほどいて、長男一家は現在も薬問屋を営んでいる。
もちろん今はその息子の代になっていたから信子も法事以外に
生家を訪れることもなくなっていた。
兄が亡くなって十年近くになるから、三回忌に戻った時を
最後にもう数年高知へ足を踏み入れていなかった。
七回忌は元気だった息子の翔一郎が美沙と理子を伴って帰っていた。
そして昨年翔一郎はこうして障害者になり、親族にも報告をしたが、
わざわざのこちらへの見舞いを丁重に断っていたのだった。
信子の気持ちが大きく変化したのは、平田メイ子との同居だった。
翔一郎が大きく反応し、昔知り合いだった人との交流によって
脳の快復が見られることに、気のせいであっても、
もっと大きなきっかけを作って見たいと思っていた。
ましてや、八十歳になる信子自身、そうそう長旅はしんどいものに
なるのを感じていたのだ。
高知は初夏の季節が一番好きだった。
鰹は旬を迎え、若葉の美しさは見事なものであった。
仁淀ブルーで有名な一級河川、仁淀川の川の光は何か大きな
エネルギーを人に与えてくれるようでもある。
信子は美沙に自分が旅行費用を出すから、翔一郎にとっても
同行の皆にとっても寛ぎのある良い旅を計画するように
熱心に頼んだのだった。
九章 その2に続きます
by akageno-ann | 2024-08-17 07:09 | エッセ- | Trackback