紙すきの写真
その4
翔一郎が土佐に帰ると親族は一堂に介して久しぶりの
大勢の来訪を喜び合った。
翔一郎の従兄の賢一は、翔一郎の病をことの他残念がったが、
こうして高知に来れるまでになった様子を誰よりも喜んでいた。
賢一は体格の良い土佐のいごっそうと言われる男で、
酒に強く人の世話が良くできる人間だった。
その時も車椅子から翔一郎を軽々と抱き上げて風呂にいれたり、
トイレの介助をしたりと、
信子はこういう男性が家にいてくれたらどんなにか
翔一郎が心丈夫であるだろうに・・と思ってしまったほどだった。
翔一郎も始めは少しはにかんだ様子だったが、酒も少しだけ
共に飲み、心が解放されるような姿を久しぶりに皆に見せた。
そういえば翔一郎は酒好きだったのだ。
脳の病気はアルコールの摂取しすぎはよく問題になるが、
倒れた時に大酒を飲んでいたわけでもなく、その後も
梗塞や血管からの出血もみられないので、普通の食事と
たまに嗜む程度のアルコールは許可されていた。
賢一はそれを喜んで少しの日本酒を翔一郎と酌み交わし、
これからのことを話し合っていた。
「翔一郎君。こちらへ帰ってこないか?ここでリハビリ
しながら教育相談員をやってくれないか?」
翔一郎が教師として頑張っていたことや、インドへ
赴任したことも賢一は、この地方から憧れをもって見つめていた。
自分は高校の修学旅行で東京に出たがそのときに大学を
東京にしようとは思わず、地元の高知大学を卒業した。
この地ではエリートと言われて、そのまま役場に勤めて、
今は課長までになっている。
人事権も少しは持っていて、特に教育行政を強化しようと
している現在の状況から、障害者になった翔一郎に仕事に
就かせたいと、心から考えていたのだ。
賢一はこの土地で実に堅実に土地の発展のために仕事してきた。
土佐が大好きな賢一は頑固一徹
土佐のいごっそうとしての自負があった。
「いごっそう、てのはそんな簡単に説明できるものじゃない。
本気で土佐のこと考えてる男だけに与えられるに
称号みたいなもんじゃき」
酔っぱらったように会話を楽しむ賢一は翔一郎を
本気でこの土地に迎える準備を始めようとしていた
つづく
by akageno-ann | 2024-08-22 11:00 | エッセ- | Trackback