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その5
土佐の旅は短いものであった。
そこで出会う人々とのかかわりは日常とかけ離れていたせいで、
信子、美沙、翔一郎、理子、そして平田メイ子の各々が
心に響くものを見つけたようであった。
美沙ははじめ、この旅はただただ無事に遂行できたら、
とだけ考えていた。
先ずは自宅から羽田空港まで介護タクシーで
無事に時間通り着けるであろうか?
翔一郎は長い車の移動に気分が悪くなったりしないだろうか?
信子が高齢で、果たしてこの旅に本当についていかれるのであろうか?
そんな疑問符ばかりを頭の中に繰り返していた。
しかし娘の理子が大変喜び積極的だったことと、
平田メイ子が快く同行を承諾してくれたことに助けられていた。
そして出発の日は見事な好天をあてた。
介護タクシーは車椅子ごと乗せることができて、
クッションの良い車が時間通りに来て、皆を乗せ、快適に
高速道路を走って、予定の時間の三十分早く羽田に到着できた。
やればできる・・美沙は改めて大きな力をもった。
空港内の介護用のトイレはゆったりと使いやすく、
翔一郎も機嫌が良かった。
その幸先のいい出発がこの旅の全てを支配してくれていた。
土佐は最高に良い季節で皆を出迎えてくれた。
そして人々の優しい心・・さりげない励まし。
さらに美沙には北川の愛情こもる態度が心を躍らせた。
それらすべてを正直に素直に受け取ろうとした。
間もなくこの一行の復路が始まる。
高知龍馬空港にはたくさんの縁者が集まってくれた。
翔一郎がぽつりと言った。
「美沙、なんだかデリーのインディラガンジー空港から
日本へ帰国する時のようだね」
翔一郎も心が躍っていたのかもしれなかった。
「はように、またもどってこいや」
そんな言葉に見送られて、一向は東京行きの飛行機に乗り込んだ。
この時代に自分たちの単体の家族だけではやりきれない
問題が生じてきている。
プライバシーを守りながらも大きな協力体制を作ることは
大切なことだと考えながら美沙も機上の人となった。
つづく
※次回は最終回です。ここまでもお付き合いいただき
感謝いたします。※
by akageno-ann | 2024-09-08 14:03 | エッセ- | Trackback