深まる秋に
その8 帰郷
上京から翌年 しのぶの弟の結婚式があり
高知への里帰りのはずであった
しかししのぶが残念ながら流産をしてしまい、
孝之が一人帰郷した
亜実も同行できなかったので亜実の祖父母たちを落胆させた
孝之の残念がる気持ちは硫酸した子が男の子だった気がしてならなかったのだ
田舎では一姫二太郎という、女子と男子の誕生を願う者が多かった
東京に出てても同じような思いを持ってしまったのだ
流産で少し入院したしのぶに代わって孝之はよく亜実の面倒を見た。
日中は近所のしげ君の母が亜実を預かってくれて
亜実は愉しんで一日を過ごしたようだった。
退院後もしのぶの身体を心配して家政婦を少し雇って
洗濯と食事作りを1週間代わってもらった。
一人っ子の亜実であったがそんな変則的な暮しにも
順応していたようでしのぶも安堵できた。
そして何よりご近所付き合いの人情味のあることに感謝した。
ちょうどその頃は高知の母 かねは長男の結婚や神社の祭りの
準備で忙しく上京はできなかったのだ。
こういう窮地に臨んでこそ、それを乗りこえ馴染んでいくのだと、
神に祈りながらしのぶの回復と次の帰省を楽しみにすることにしていた。
亜実はご近所のおばさんたちにもすっかり馴染み
間もなく幼稚園を選ぶ時期にきていた。
その頃になると神社を見て「おばあちゃんに会いたい」とは
自然に言わなくなっていた。
つづく
by akageno-ann | 2024-11-18 17:43 | エッセ- | Trackback