春を待ちかねて

その10
しかし正之も中学校に入学した頃から自分の立場を
考えるようになっていた
姉亜実との年の差がかなりあるせいで年上の友人が多かった
姉はすでに大学生になり、教員養成大学に通っていた
「お姉ちゃんはやはり教師になるんだね」と確認した上で
自分は教師以外になると決めていたのだ
親族に教職に就く人が多くてあまりにも
社会が狭いのでは、と、それは父孝之の
気持ちも反映していた
戦後の厳しい世の中の流れの中である意味やむを得ず
教職に就いたと正直に話してくれた父のことを思い、
自分は敢えて違う道を歩もうと
考えたのであった
母方の叔父が神職であることもとても興味があった
叔父の学者のような佇まいが好きであった
叔父の名、瑞井も折口信夫氏によって名付けられ
折口氏の最後の弟子の一人となった
そのことを自慢こそしないが大切に心に置いて文学の研究と
折口信夫氏の遺されたものを地方紙に発表して、
ライフワークとしていた
亜実たちは夏休みに宿題を持って帰郷すると
古文の文法など丁寧に指導してくれるので
亜実は国語の教師を目指し、
正之はいずれ神職の資格を取りたいと願うようになった
神祭のときの叔父の装束とその振る舞いが美しかったのである
しのぶはあまり実家に口出しをすることを控えていた
そうしていても神社に深い興味を示す正之を流れる血筋なのか、と
複雑な思いを持っていた。
第五章 終
by akageno-ann | 2025-02-08 12:17 | エッセ- | Trackback




