初夏のような日の音楽会
その4
正之が海外の大学を受けたいという希望を両親に話したとき
父親の孝之はけんもほろろな態度をとり
「日本でしっかり教育を積んでからでも遅くないではないか」
と、正之の希望を受け付けなかった
母のしのぶは柔軟な心の持ち主なので、なんとかもう少し
正之の気持ちを聞いてあげてほしい、と願ったがその機会を
作れないまま月日は流れていった。
こういうときの孝之は強行で自分本位になることを
しのぶも亜実も正之もわかっていた。
正之は特に男子に厳しいこの父から離れたいのかもしれなかった。
母親としてはその方がよい、とさえ思っていたのだ。
幼い頃から二人の関係に心を悩ませることが多かった。
しのぶの父は戦争中に高知の神社に戻って宮司として務めていたが
戦後に丹毒という、理髪店でできた切り傷から入った細菌により
命を落としていた。
屈強な体格で 心は穏やかな 甘いものの大好きな父であったので
その性格とはかなり異なる孝之との暮しには随分と気遣いが多かった。
しかし教育者として熱心に務め 子どもたちにも自分のビジョンを
持って接していたのでそこは尊敬できていた。
何しろ公立の小学校の評判を調べて 孟母三遷のごとく
居住地を決める人であった。
そんな孝之に従っていた、しのぶだったが 正之の希望は
新しい生き方として叶えてやりたかった。
つづく
by akageno-ann | 2025-04-20 17:55 | エッセ- | Trackback






