母を偲ぶ


その10
この夏休みに 亜実は母しのぶとふるさと高知に帰った。
ただ正之の無事を祈りながら家にいるのは落ち着かなかった
海外に家族がいると思うと 東京から高知など近い、と
いつも以上に感じられたのだ。
この頃は飛行機で高知空港まで帰ると 従妹のあっちゃんが車で
迎えに来てくれていた。
「おばあちゃんが首をなごうして待ちよるよ」と
明るく優しいあっちゃんは東京の短大を出て地元に戻り
神社の手伝いをしていた。
運転も上手で途中太平洋が見渡せる道を通ってくれた
久々の土佐の海だった。
やがて仁淀川の中流の町に着いた。
この川をみると亜実は心が明るくなった。
神社の駐車場に着くと、母と2人で神社の境内に周り、本殿に向かい
無沙汰を詫び、今は正之の短期留学の無事を祈るのだった
神社の母方の祖母は初孫だった亜実をことのほか可愛がっていた
生まれてから三才までは手元において育てていたが
その後は亜実一家は東京に居を移し
なかなかゆっくりはこの土佐に戻ることはなかったのだ。
あっちゃんにしてみれば亜実は姉のような存在だが、
「亜実ちゃんは東京でがんばりゆうよ」と
ハッパをかけられるのが励みであり、プレッシャーでもあった。
しかし2人は姉妹のように仲が良く、再会を愉しんだ。
「よう、もんたね。鰹のたたきと皿鉢料理とってるきね」
その晩は近所の人々も招いての食事会になるようだった。
つづく
by akageno-ann | 2025-05-11 15:32 | エッセ- | Trackback



