梅雨入りと豪雨への心配
その9
失恋の経験は尊い。
長い人生の中に必要な試練だと、しのぶは思っていた。
娘の亜実が年上のK氏を結婚相手に考え始めていたことを
知りながらK氏自身が早めに決着をつけてきた。
それはまだ若い亜実への暖かい思いもあったと感じられた。
夫孝之からK氏の母上が余命宣告をされていて30才をとっくに越えて
独身の長男Kのことを案じていたことを本人が一番わかっていたのだ、
と知らされていた。
それでもうら若い、しかも先輩の長女である亜実に恋心を抱き、ダメ元で
「お嬢さんと交際させていただきたい」
と願い出たことを後悔はしていないが亜実に
申し訳なかったという思いがずっと消えることはなかった。
亜実の方は初めての大人の恋だったのだが 若さというのは
「生きていける、生きて行かねばならない」というまっすぐな
気持ちが失われていなかった。
憧れよりは強いKへの思慕はたしかなものだった。
しかし亜実はKのことを深くは知らなかった。
ただ自分は同い年くらいの人と触れあうよりも
年上の人との会話が好きだったのだ。
背伸びをしていたのかもしれない。
その人が他の人からも慕われているなどと想像もしていなかった。
母親は「それだけの年齢なら何もない方が不思議ですよ」
と言っていたことも思い出す。
友人には「亜実の独り相撲では発展しないわよ」
との忠告もされていた。
そんな風に亜実は恋に対してここからまた
成長していくようでもあった。
つづく
by akageno-ann | 2025-06-10 18:25 | エッセ- | Trackback






