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デリーへ帰る日

1週間という時間は短いようだがフルに動けばかなりの仕事ができる。

美沙は1年前のデリーに渡るまでの最後の一週間の殺人的な、と友人に言われた
スケジュールをこなしていた自分を懐かしく振り返る。

最後の最後まで荷物に詰め込む品々を買い求め超過料金も知らずにダンボールを増やしていた。
これから始まるインドの暮らしが全く未知のもので、持っていく品物が当たりなのか外れなのかもわからず、ただ不安とほんの少しの期待をもって出発した日、ちょうどその1年後に美沙は日本に戻っている。

病院の検査が無事に住み、都内の実家に戻ったので、久しぶりにデパートを歩き回り、乾物や珍しい菓子、在印中の仲間に頼まれた和服の小物や医薬品で日本でしか手に入らぬものを先ず探し出し、とやらねばならぬことを次々とこなす。

その間にランチの時間は友人とこまめに会った。

友人たちも心得たもので時間のない美沙に合わせて何人かまとまって集まってくる。

「美沙をだしにして、こうして集まらないと、日本にいても平気で1年くらい会わないですごしちゃうのよ。」という言葉は本当らしい。

中には「インドなんてよく行くわねえ、」と心配が嵩じて呆れていた友人さえも興味本位でやってくる。

美沙の元気でどことなく漂ってくる自信のようなものに少々気圧される感じをもつ者もあったようだ。

別れ際に昨年のような悲壮感はない。

美沙がインドを決してけなさないからだ。

曲がりなりにもお手伝いを使い、英語を使い、初めて出会うたくさんの人々との付き合いをしてきた、1年はそれまでの日本の暮らしに比べて大きな変化があり、美沙をそれなりに成長させているのは誰の目にも明らかだった。

インドという国は美沙が住んでいるということだけで、その周辺のものたちも大いに興味を持つ国になっていたようだ。

買い物までつきあってくれるのが、成田に迎えに出てくれた栄子である。

大らかな人柄は昨年も今もまったく変わらず、久しぶりに会えた親しい友人同士は時間を無駄にしないようにできる限り行動を共にして、語り合った。

変わらぬものは何も変わらないという実感を美沙は持つことができ、感謝していた。

買い物も心得たもので、必要なものを必要な分だけ買い求め、荷物もコンパクトにしようと心がける。

百聞は一見に・・・とは正にこのことだ、と実感していたのである。

帰国3日目は埼玉の自宅付近で間もなく渡印する教員夫人に会った。

若い新婚のカップルらしく、美沙よりも年下だったのが楽しかった。

「やはり暑いですか?」の質問には

「えぇ、昨年は本当に暑くてびっくりしました。長いですし。
日本食材はなるべく持って行った方がいいですよ。私は今回初めて
知ったのですが、成田へ出発当日運んでくれる魚屋さんがあって、
頼んでみました。一応電話番号お知らせしますね。」

など、具体的に連絡してあげたが、実感としてその必要性はまだ感じていないかもしれなかった。
しかし、溌剌とデリーに渡る事を楽しみにしているようで、そのことが美沙には眩しく感じた。

この新しい人々の1年もまた、インドでの様々な経験がもたらされるのだと、同士のような
新しい活気のある良いライバルが来てくれるように感じた。


デリーの日本人会はまとまるべき行事では楽しくまとまろうとし、
それぞれの仕事では厳しい現実にむきあって戦い、大変な気候と共に日々を
過ごす。

その連帯感はほかのどの国よりも恐らく強い絆になっているようにも思え、こうして日本からデリーを見たときに、「デリーに帰るのだ」という思いを強くした。

親しくなった北川怜子が、病をおしてもデリーに帰り夫と共にすごしたいと思ったというその気持ちを、今美沙は日本で実感している。怜子の実家からも頼まれ物が美沙の日本の自宅に送られてきた。決して多い荷物ではないが、彼女の大切な医薬品が入っているはずだった。

溌剌と買い物や人との会合に動き回る美沙をみてその両親も、流産という辛いであろう経験をした娘が心なしまたここで大きく成長しているようで、安心してまた見送ることができると思ったようであった。



夫の翔一郎もまた、たった一人のネパールの旅行を無事終えて元気で日本の美沙に電話をしてきた。

この夫婦はこうしてそれぞれに行動しつつ、互いの信頼感を深めているのかもしれないと、
翔一郎の母でさえも思わされていた。

美沙は日本にいる間にデリーへの不満はたくさんあるはずなのに、デリーを決して悪くいいたくない、と自然に言葉を選んでいる自分にあとで気づいた。

デリーがなんの心配もない楽園なのではないが、何故かあの自宅へ戻りたいのだ。

そして懸案のサーバントを新しく決めなくてはならないと、決心していた。

デリーへ帰る日_c0155326_1850893.jpg日本人会運動会での子供たちのインディアンダンス







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by akageno-ann | 2008-02-29 21:00 | 小説 | Comments(16)

Commented by ロッキン at 2008-03-01 01:01 x
お友達の「美沙をだしにして、こうして集まらないと、日本にいても平気で1年くらい会わないですごしちゃうのよ。」っていう言葉、ほんとそうだと実感してます。
私も日本に帰ると逢うお友達たちがいるのですが、みんなそれぞれの生活ができるとなかなか以前のように気軽に会えるものではなくなって、疎遠になってしまうんですよね・・・ だから、私が帰国するたびに同窓会感覚で逢ってます。

ご主人もネパールからお帰りになって、美沙さんのこれからの難題、サーバントをどういう形で見つけて決めていくのかしら?
次が早く読みたいですっ!
Commented by elliottyy at 2008-03-01 02:06
日本人会運動会での子供たちのインディアンダンス!すごく決まってるね!!
民族衣装を身につけてすごくかわいい♪
ポチッ☆
Commented by まーすぃ at 2008-03-01 04:13 x
日本人の子供達のダンスの姿とってもかわいくて、素敵です!

日本での滞在、とても充実で、美沙さんの人柄で友人との交流が続く…美沙さんを囲んで友人が集うというのに感動♪

インドに住んだ人同士での愚痴などは、お互い、同士のような感覚で言い合えるけど、でも、インドに住んでない人からインドをこうだと決め付けられるのは嫌、とい思い…私も、アメリカに住んでいて同じ思いです。

それは、自分がインドに暮らすものとして、美沙さんが、インドをまるで、第2の故郷と呼べるところまできているのかも知れませんし、何よりも、インドによって自分が成長できたことを、実感し、感謝する気持ちもあるかに、他なりませんね。

今後の展開がさらに楽しみです♪

応援♪
Commented by ママ at 2008-03-01 08:26 x
インドの踊りってどういうのか見てみたいです。
美沙さん、短い間の日本で色んな人と再会して
色んな事があったみたいですがでも、仲間が集まってくれるって
いいですよね。

インド、ママはannさんに教えてもらって凄いいい所も
ある所だなぁ~っていつも見てます(・益・)(-益-)(・益・)(-益-)ゥィゥィ

└(・∀・)┐ズンズン┌(・∀・)┘チャッチャッ
今日もポチポチ隊行きますよぉ~♪

Commented by panipopo at 2008-03-01 08:48 x
美沙さん、短いけれど充実した日本滞在をしたみたいですね。
よかった~!何よりも家族や翔一郎さんのお母様、そして友達にインドで満足して頑張っているという印象を残すことができて、何よりです。みんな遠くに離れていると、すごく心配しますものね。

デリーの不満が出てこなかった、そして帰るのが待ち遠しいという気持ちが手に取るようにわかりました。私もモーリシャスのとき、そんなふうでした。それだけ自分の中で、何か彼の地で得るものや成長させてくれる力があるということを認識した時だと思いました。

これからの展開、楽しみにしてますよ~!それに現代小説の部門も第1位ですね。おめでとうございます!!!
応援♪
Commented by akageno-ann at 2008-03-01 09:23
ロッキンさん、日本への一時帰国の友人がいると私はいつもこのようなことを言って会いに行くのが楽しみなの。
海外のニュースにも仲良しがいる場所だとまるで隣のように心配したり楽しんだり・・その内容に詳しくなります。

海外で頑張ってくれている人々へのエールになったらと言う思いもあって、書かせてもらってます。
コメントに感謝です。
Commented by akageno-ann at 2008-03-01 09:24
elliottyyちゃん・・いいでしょう・・・この写真にはまだ物語があります。お楽しみに。
Commented by akageno-ann at 2008-03-01 09:26
まーすぃさん
第二の故郷・・・そうなんです・・・・・・ありがとう・・もう嬉しいわ
そしてこの俗人の私はシンガポールが第二の故郷だと思ってます。
そしてタヒチに行きたいです・・あなたのブログも大フィーバーですね。

毎日こうしてネットサーフィンで日本全国、海外の人々と交信できる生活にとても喜びを感じられます。
応援本当にありがとう。
Commented by akageno-ann at 2008-03-01 09:28
ママ・・ポチポチ隊長ありがとう・・
└(・∀・)┐ズンズン┌(・∀・)┘チャッチャッ
この気分で書いてるの・・インディアンダンスは簡単なもの
しか踊ってないけど・・子供の衣装は可愛いですよ。
男の子のターバンがいいでしょう・・
Commented by akageno-ann at 2008-03-01 09:41
panipopoさん。いつも共感の感想にどれほど励まされるか
わかりません・・・色々な地に生活してこられて大きな経験を積んでいらっしゃる貴方に「そういうことがあった。」と言われることが
展開する上での支えになります。

そして今のあなたのブログ・・もとても支えになってます。
癒されます・・心も味覚も・・
Commented by びつきい at 2008-03-01 22:31 x
美紗さんがインドの悪口を言わない・・・それはとても大切なことだと思います。
そうすることで、インドでの暮らしがより深みを増すと思いますし、インドでの生活を一生の宝物にさせてくれることでしょう。

実は私は、アリババ役でターバンを巻いたことがあります・・・。


Commented by akageno-ann at 2008-03-01 22:44
びつきいさん、アリババをなさったのね・・そしてターバンを
素敵な経験ですね。そしてそのことをここで書いてくださって
うれしいです。インドでの暮らしが深みをます・・
どこで暮らすにもそういう気持ち大切ですね。
Commented by あき at 2008-03-04 12:25 x
ウチの実家の友達もなかなか近くに居ると会わないけど
アタシが帰ってくるときとかはいい機会だから同窓会みたいに数人集まって楽しい時間を過ごすよ~!
年に一度でも濃縮した楽しい時間が過ごせるって素晴らしい事だよね!
美紗さんがインドに帰るのが待ち遠しいと思った気持ち、そう思わせたインドと言う国。。。
本当に、悲喜こもごもの魅力的な所なんだろうな・・・行ってみたい・・
Commented by ヒツジ at 2008-03-04 12:33 x
あきちゃん・・コメントありがとう
こうして前のをよんでみると・・いろいろ気づくことがあって
ありがたいです。
同窓会・・そう女の人たちは実家が遠くなることが多いよね。
Commented by G at 2008-03-12 01:53 x
 明日から3月分突入です♪ここまでお気に入りから探すほうが楽だったのですが、3月からリンクさせて下さいね!これからも楽しみに読ませていただきます♪
Commented by akageno-ann at 2008-03-12 07:04
Gさん、よろしくお願いします。
コメントもすごくありがたいです。
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