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ある共感・・・・・パリ最後の日

第117話

旅を三週間も続けるというのは体力も精神力もかなりいるものだと、北川は妻の怜子を少しホテルに休ませて、デリーに戻るためにKという日本風な名前の日本食材店に寄っていた。

それほど品数が豊富というわけではないが、飛行機の超過料金を考えるとそんなに贅沢もできず、ハウスの本豆腐の素や乾燥若布、だしの素、焼き海苔、ふりかけなど自分の昼食の弁当を思い浮かべつつ買い物をしていた。

「いらっしゃい。」
店主は女性で気さくな挨拶で新しい客を招きいれた。

「北川先生。」

びっくりした声で入り口に立っていたのは美沙だったのだ。

まあ、デリーに帰る日本人が最後に立ち寄るとしたらこの店はありきたりな場所だといえば
ここで二人が遭遇するのは決して不思議なことではない。

だが美沙はひどく狼狽していた。

美沙の中にはこの2日間、いやデリーに来てからの日々、夫翔一郎以外で一番日常に出会い会話をしてきたのは、怜子の夫北川であった。

教師としても卒がなく、日本人会でも役員を勤めていたので人当たりが誠に良い。
妻を重い病で日本に帰したことがさらに人間性を高めることになったのだ、とは怜子自身の言葉だった。

美沙たち夫妻をまるで弟夫婦のように親しく扱い、それでいて学校や様々な会ではきちんとした一線を踏まえて親しげな態度は取らず、美沙にしてみれば、自分と比べても随分と大人の北川と触れ合ってきた。

翔一郎の向きになって仕事する態度も、インドを好きになれず苦しむことも全て知った上で
「片山先生は、貴方らしくやっていけばいいんですよ。」
と、様々な場で盛り立ててくれてきた。

この旅もこうして二組が所々で落ち合って食事したり観光したり、いつも妻怜子の体を気遣い、4人の会話にさりげなく気を使うこの男に知らずある種の憧れを感じてしまった美沙がいたのだ。

美沙はこの日もう一度買い物をしておきたい、と少しのんびり休んでいたそうな翔一郎をホテルに残してここへ赴いたのだ。

北川は美沙の買い物が済むのを待って、にこやかに彼女をエスコートするようにその店を出た。

「美沙さん、これからどういう予定?」

「別に予定はないのです。主人はゆっくり寝ていたいようですし。怜子さんは?」

美沙は別のホテルで怜子も休んでいるのはわかっていたが、わざとしらばくれて
そんな質問を投げかけた。

それには北川は答えることもなく、

「それじゃあ、折角ここであったんだから、少し観光しようよ。荷物は重くないかい?」

「えぇ、大丈夫ですけど・・」

その申し出にぶっきらぼうに美沙は応じた。

「実はね、僕は前からみたかったシテ島のサントシャペルの・・」

「バラ窓・・ですね」          

ある共感・・・・・パリ最後の日_c0155326_22483928.jpg美沙は思わず口をはさんでしまった。

「そうだよ。もう見たの?」

「いいえ、行ってみたかったけど、場所がよくわからないし。」

「そう、じゃあそこへ行ってみよう。あれは世界最古のステンドグラス群の一つだといわれてるんだ。最高裁判所の中の教会っていうところが、さすがヨーロッパだね。」

美沙は本当は単に案内書を読んだだけの知識で、なんとなくみてみたいな、と思った程度のものだった。しかし、こうして偶然出逢った北川が案内してくれるということに心を高鳴らせた。

つづく


                                           




by akageno-ann | 2008-03-26 22:52 | 小説 | Comments(15)

Commented by nobue at 2008-03-26 23:33 x
うわ~、素晴らしい窓!これは美沙さんも興味を持つわけですね。
でも、北川さんと美沙さんで行くというのが、ちょっぴりスリリングですね。(昼メロ路線じゃないって!・・・失礼しました)
どんな展開になるのかしら?楽しみ~~
Commented by ロッキン at 2008-03-26 23:43 x
わ~ 綺麗なステンドグラス!! 私が初めてアメリカにきた時にアメリカ人の知人に色々な教会に連れていってもらったんですが、そこで見たステンドグラスに感動したことを思いだしました。

おりょ!? 北川さんと美沙さんでお出かけですか・・・?  Nobueさんもいってらっしゃるけど、どんな展開になるのか、楽しみです!
Commented by まーすぃ at 2008-03-27 05:14 x
美しいステンドグラス!自分の目で見られたら感動でしょうね!

とっても心使いができる北川さんと一緒に。同僚家族だし日頃交流があるけで...、でも男女の2ショットって、(しかもこのロマンチックなパリですよ、奥さん!)なんか妄想してしまいますねえ(野次馬根性?汗)。
Commented by crystal_sky3 at 2008-03-27 11:34
ステンドグラスからやさしく差し込む光を想像しています。
そこに描かれるものは一体どんな風に見えるんだろう・・・。
時が止まりバラ色の光の音だけがそこにあるのかな・・・なんて空想しています。
美沙さんのドキドキ、分る気がします。
どんな展開になるのでしょう♪
楽しみです!

応援★★
Commented by akageno-ann at 2008-03-27 11:48
みなさ~~~ン・・応援ありがとう
人生の旅は・・どうしてもこういう心の綾を抜かすことはできません・・なんて・・気をもたせますが・・私の渾身の純愛論を聞いてね・・
ここは敢えて、お返事せず・・・引っ張らせてもらいます・・ウフフ
Commented by あっ! at 2008-03-27 13:53 x
フムフムと思ってしまいます。
今後に期待!!
Commented by CHIL at 2008-03-27 15:07 x
素敵なバラのステンドグラス。
ここからさす光は、どんな光なのでしょうか。
物語の中の二人を包むステンドグラスからこぼれる光はどんな光なのか、なんだか楽しみですね♪
Commented by panipopo at 2008-03-27 16:32 x
K, 私もよく行きました~!同じときじゃないけれど、同じお店にannさんも買い物したことがあるというのは、なんだかうれしくなっちゃいました☆ 
このバラ窓、とっても有名ですものね。私も並んで高い料金を払って見に行きました。。。教会なのに珍しいとか、文句言いながら見に行って、あまりにも美しさと荘厳さに驚いてしまって。。。素晴らしい光景ですね。

北川さん、確かハンサムさんなんですよね。美沙さんの気持ちが手に取るように伝わって来ました♪ なんだかannさんもまーちゃんと同じような手口を使うようになってますね(爆)!
Commented by kaseno-sanpo at 2008-03-27 20:00
美しい教会ですねえ。
ここで二人の間はどうなるのか。
教会のステンドグラスに相応しい内容を考えている事でしょうね。
ポチ。
Commented by ちかた at 2008-03-27 20:56 x
美しいですね・・・そして、このドキドキ感、次が気になります。
panipopoさんのおっしゃるとおり、まーちゃんのような手法?を使われてますね・汗



Commented by akageno-ann at 2008-03-27 21:07
はいはい・・まーちゃんの手口ですよ・・笑

ステンドグラスの光にふさわしい・・・う~~ん
悩んでます・・
あっ!ちゃん 左手だけでコメント感動ありがと・・
Commented by akageno-ann at 2008-03-28 08:30
この章に、乗ってくださって感謝・・・
引かれちゃったらどうしようか・・と思ってました・・笑
nobueさん、昼メロも今結構面白いです・・笑

ロッキンさん、おりょ!にとても励まされたの・・・サンキュ

まーすぃさん・・あなたの手法借りました・・野次馬にも感謝!!

クリスタルさん・・時が止まりばら色の光が・・って思わず盗作しそうになりました・・笑


Commented by akageno-ann at 2008-03-28 08:36
あっちゃん・・パソコン導入おめでとう・・楽しもうね。

CHILさん、「物語の中の二人を包むステンドグラスからこぼれる光」
いただきたいフレーズです・・・笑

panipopoちゃん、ほんとKでわかってくれて感動したわ・・今もあるのかな?そうそう、入場料高いよね確か・・調べてみよう
ハンサムを覚えててくれたのね・・そうなの

風さん、ステンドグラスに相応しかったかなあ・・
     ポチにメルシー

ちかたちゃん、ドキドキしてくれて嬉しかったわ・・
         ドキドキの連続は書いてるほうも心臓に悪いので
         そろそろ楽しいインドかな?
Commented by G at 2008-04-05 22:10 x
 普通、物の表面の色は光の反射の色ですが、通過するとガラスの色に染まる光・・・ ステンドグラス! いいですよね~。
 逆光の木の葉や花びらなども、葉や花の表面の色と透ける光の色が混ざって見えるのが大好きです♪
Commented by akageno-ann at 2008-04-06 08:53
Gさん、昨日またあのインド料理にいきました。最高でした。
あっちゃんをいつか連れて行きます。
ステンドグラス・・・見る時間角度によって印象が異なるのも魅力です。
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