夢・・・・・を見た
あらすじとこれまでの経過
デリー日本人学校に赴任して最後の夏を迎えた
美沙と翔一郎は呑気な南仏の旅を続けていたが、
もちろん美沙の頭の中には高知へ帰って闘病中の北川怜子のことは常に頭に
あった。
しかし、デリーと日本とでは時差は三時間ほどしかないのに、日常の違いが
大きくて、電話をする気力がない。
またどんなに話したところできりがつくことは恐らくなく、かえって物足りなさを
感じてしまうこともわかっていた。
当時の国際電話は高くインドも30分も話せば1万円にちかくなっていた。
とはいえ、美沙にとって怜子とのデリーの日々は大きな支えになっていて
美沙は怜子と初めて距離を置くことで、そばにいたときよりもその存在の大きさをひしと
感じたり、実際に会話するよりも心で語り合っているときがあった。
/////今日の小説の最後にこれまでのあらすじがあります。////
第172話
デリーから高知に戻った怜子は子宮癌の治療を続けながら約半年を過ごしていた。
高知で6月の末を迎えようとしている。
高知の日射しは次第に強く、極力日焼けしないように、余計な体力を消耗しないように
気をつけて暮らしている。
再発はしたものの、それは大きな転移ではなく、同じ臓器にまた腫瘍が確認されたというような内容だった。ただ脇の下のリンパ腺がかすかにでも膨れているのが気になり、それは医学的に考えても決して良いことではなかったのだ。
体は体力は少しずつついてきたものの、なかなかすっきりとした日はなく、日々の食事の用意と
洗濯、軽い掃除をすると、ぐったりと疲れてしまっていた。
怜子の実家の母親が心配して時々怜子の家を訪ね家事を手伝うのだが、そのことが怜子を恐縮がらせ、親不孝を詫びられることもその母はつらかったのだ。
その日は昼から母が来て掃除し洗濯をして夕食にカレーを煮て行ってくれた。
この母のカレーはなんとも美味しかったので、怜子はわざと茶化して
『お母さんのカレーはインド人もびっくりするほど美味しい』と言って喜んで食べていた。
もちろんそれはインドのカレーとは違う日本のライスカレーだった。
その日の午後は比較的凌ぎやすく怜子ものんびり昼下がりをテレビの再放送を見て過ごしていた。
居間の電話が鳴ったので怜子は徐に受話器をあげた。
「もしもし北川です。」
「こちらニースです。」
最初の言葉がよく聞こえずに怜子は
「え?誰?・・・・・いやだ美沙ちゃんなの?」
怜子はあまりに思いがけずびっくりして受話器を握りなおした。
「すいません、びっくりしましたか?
怜子さん如何ですか?お体は・・・」
「どこにいるの?この電話インドからじゃないわよね。」
そう思ったのはインドの回線よりも鮮明に聞こえたからだ。
シンガポールにでも出ているのか・と思うほど近く聞こえた。
「ニースなんです。フランスのニースです。地中海初めてみました。」
そのニースという響きが新鮮で、怜子は心が弾んだ。
「美佐ちゃん、そんな遠くからかけてくれてるの?
高いよね、国際電話。」
「いいんです、怜子さんと今日はフランス料理を大枚はたいて食べたくらいしゃべりましょう。
こちらは早朝でまだ起きたばかりです。」
「ありがとう、ほんとにありがとう。なんだかとっても元気が出てくるわ。
行きたかったなあ、ニース。モナコも行ったの?」
怜子はそれこそ古い映画でグレースケリー主演のヒチコックサスペンス「ダイヤルMを回せ」が大好きで、そのケリーが嫁いだ小さな国に大きな憧れをもっていた。
そこからの電話だけでも、旅をしているように一瞬、心は軽く時空を飛んでいた。
美沙のこういうお茶目なところが怜子は好きだった。
普通は闘病中の人間に外国の旅の途中の電話など、悪遠慮してできないものだが
美沙は違っていた。
美沙はその前日生牡蠣の食べすぎで腹痛を起こし、夫を起こさぬようにトイレ通いをして不安に過ごしたのだ。
そしてその体調の悪い時の夢も最悪で、美沙自身も怜子と同じ病に倒れるものだった。
そうなると、いてもたってもいられずに美沙は怜子に電話してみたくなっていた。
自分が闘病していたら、仲の良い友人の消息はとても知りたい・・と
そう、思ったのだ。
つづく

ニース駅はホテルのすぐそばにあった。地中海沿岸の街をつないでいた。
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「annと小夏とインド」
こちらも是非お立ち寄りください。
片山美沙は夫翔一郎の在外派遣教員としてのインドデリー赴任に伴い、中学校教員という職を辞して渡印した30歳前半の女性であった。
子供もまだおらず、デリーで始まった異文化の中での暮らしは戸惑うことも多く、一緒に渡った夫の同僚教員の家族との交流から始まった暮らしであったが、子供のいる家庭とそうでない家庭のここでの日々の違いから、1年早く同じ立場でここに居住していた、高知県出身の北川怜子(さとこ)の家と近くであることから、次第に親しく交流するようになった。
怜子夫妻にもやはり子供はなく、怜子自身は日本で看護士という職を退いて夫に伴われてきえいたことにも互いに共通点を見出していた。
しかし、怜子は1年目の終わりころに、子宮癌が発覚し、一時日本に帰国して手術し、抗がん剤治療を行っていた。
怜子は抗がん剤治療の半ばでその薬をインドに持ち込みながら、再びデリーに戻ってくるという強靭さをみせた。
北川、片山両夫妻は互いに打ち溶け合って、デリーの暮らしを二分するように、喜びも暑さによる苦しみも共に分かち合うのだった。
美沙の二年目の夏は二夫婦はヨーロッパに旅に出て、さらに親交を深めたかのようであった。
デリーの暮らしは厳しい暑さと戦いながら、インドの人々の文化やしきたりを学び、その中で強く生きていかねばならないことを美沙も、怜子もそれぞれの立場で感じていた。
とりわけ美沙は最初の酷暑の中で早期流産をしていまい、心と体に少なからず打撃を受けていた。
二人の女性は偶然同じ、互いの愛読書「赤毛のアン」のシリーズ本を心の支えに、インドの暮らしを自分の中に取り込み、時に心揺るがせながらも勇気を持って生活していく。
生まれ育った環境も、年代も違う二人の日本女性が、厳しい環境、異文化の中で、次第に寄り添おうとする姿を、そして癌という病のためにまた確実に別れが迫っている二人をインドの風物と季節のうつろいと共に描いている。
三年の任期をあと数ヶ月で終えようとしていた北川夫妻に、訪れた試練、それは怜子の癌の再発の恐れと早期帰国の決断を迫られた。
怜子という一人の強い意志を持つ女性の力によって支えられていた片山夫妻と怜子の夫北川の葛藤、死を決意したように一人で日本に帰ろうとする怜子本人の思いをもって
終章に入る・・・・・・
そしていよいよ怜子は日本の実家高知県に帰る。
病気を心配して美沙は自分の健康診断をかねて同行する。
一人でまたデリーに戻った、美沙はいよいよ最後のインド生活の年を迎えようとしていた。
そしていよいよ3年目に入っていく。
この小説の冒頭は・・こちらへ
by akageno-ann | 2008-07-07 22:46 | 小説 | Trackback | Comments(10)
遠くにいればいるほど、心を寄せている怜子さんの存在がきにかかるのですね。
辛い治療をされている親友の安否を気にかける美沙さんの優しさにどれだけ勇気づけられたでしょうね。
>普通は闘病中の人間に外国の旅の途中の電話など、悪遠慮してできないものだが
きっと私も遠慮してしまうと思います。
でも、自然体の美沙さんからの電話をどんなに喜んだでしょう。
同じ病に倒れる夢を見たら・・・
居ても立ってもいられませんね。
辛い治療をされている親友の安否を気にかける美沙さんの優しさにどれだけ勇気づけられたでしょうね。
>普通は闘病中の人間に外国の旅の途中の電話など、悪遠慮してできないものだが
きっと私も遠慮してしまうと思います。
でも、自然体の美沙さんからの電話をどんなに喜んだでしょう。
同じ病に倒れる夢を見たら・・・
居ても立ってもいられませんね。
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こんにちは♪
怜子さん、どうされたかな・・・って気になっていました。
デリーでなく旅行先からもこうして友人を想い連絡くれるなんて、
美沙さんの思いやりに感激したと共に、ホントの友情ってこういうものだな・・・って痛感しました。
応援★★
怜子さん、どうされたかな・・・って気になっていました。
デリーでなく旅行先からもこうして友人を想い連絡くれるなんて、
美沙さんの思いやりに感激したと共に、ホントの友情ってこういうものだな・・・って痛感しました。
応援★★
お友達の声聞きたくなるときありますね♪
お二人の関係素敵だな。(笑)
お二人の関係素敵だな。(笑)

ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
美沙さんから怜子さんへの電話。
あなたの友人は、ここにいますよ。
いつも変わりなく腹心の友のことを想っていますよ。
こういう電話が怜子さんを元気付けてくれるような気がします。
やっぱり腹心の友って素敵ですね(^^)
あなたの友人は、ここにいますよ。
いつも変わりなく腹心の友のことを想っていますよ。
こういう電話が怜子さんを元気付けてくれるような気がします。
やっぱり腹心の友って素敵ですね(^^)

ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
わかっていただける幸せ・・
今回の話題をこうしてわかっていただけて
とてもうれしく、感動しています。
離れているからわかる心ってありますよね。
そしてふっとかけた電話でそれまでの時間が
一瞬で埋まる瞬間です。
そういう関係を大事にしたいと思っています。
それは折に触れてその人のことを心のどこかに
置いているんですね・・
あまりに相手を考えすぎて、例えばお見舞いの言葉をかけなかったり、わざと知らん顔することも必要なときもありますが、
相手のことをふと心に感じて働きかけをするか否か考えてしまったときは、私は恐る恐るでも・・彼女に連絡を取ると思います。
そうしてもしも言葉だけでも何か役に立つことがないか
探したいです。
今日の皆さんのコメントに共通性を感じさせていただいたので
こうしてまとめてお返事させていただきました。
感謝の気持ちでいっぱいです。
今回の話題をこうしてわかっていただけて
とてもうれしく、感動しています。
離れているからわかる心ってありますよね。
そしてふっとかけた電話でそれまでの時間が
一瞬で埋まる瞬間です。
そういう関係を大事にしたいと思っています。
それは折に触れてその人のことを心のどこかに
置いているんですね・・
あまりに相手を考えすぎて、例えばお見舞いの言葉をかけなかったり、わざと知らん顔することも必要なときもありますが、
相手のことをふと心に感じて働きかけをするか否か考えてしまったときは、私は恐る恐るでも・・彼女に連絡を取ると思います。
そうしてもしも言葉だけでも何か役に立つことがないか
探したいです。
今日の皆さんのコメントに共通性を感じさせていただいたので
こうしてまとめてお返事させていただきました。
感謝の気持ちでいっぱいです。

30分で1万ですか??
びっくりですw
みなさんと同じようなコメントになるので・・
こういうコメントを残したいと思います。
ここではいろんなことが学べます・・
小説頑張ってくださいね~
影ながら応援しています~!!
びっくりですw
みなさんと同じようなコメントになるので・・
こういうコメントを残したいと思います。
ここではいろんなことが学べます・・
小説頑張ってくださいね~
影ながら応援しています~!!

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