人気ブログランキング | 話題のタグを見る

第215話  美しい目その2

第215話

信子と美沙はホテルの下の車寄せで佐瀬に見送られて車に乗り込んだ。

運転手は心得ていてすぐさま日本人学校中学部へと走らせてくれた。

第215話  美しい目その2_c0155326_1854543.jpg


ここは生徒数も300人を越える数で現在は小学校二校に分かれて生徒数はそれぞれに500名を越える大所帯になっていた。

その中学校の校舎の前で検問を受け、企業の名前が功を奏したのかすぐさま中に通された。

校内は冬休み中で静かであった。

信子は受付に行って、名前を告げ、ある人の名前を尋ねた。受付の人はそのまま電話でその名前の主と話をしているようであった。信子は静かな笑顔でその場にたたずんでいた。

間もなく、玄関に初老の男が驚いた顔のまま現れた。

「片山先生、どうなさったんですか・・夢のようだ!」

そうその男は叫んだ。

彼は急いで応接室を開ける様に受付に頼み、コーヒーを注文した。

「こんにちは、驚かせてごめんなさいね。お会いできるとは思っていませんでした。
ちょっとお便りを置いていこうと用意してきたの。」

「なんと懐かしい!こちらはお嬢さんですか?」

「いいえ、私は息子だけですから・・その息子が今ニューデリーの日本人学校におりましてね、今回そこを尋ねたの。 そしてこちら息子のお嫁さん・・・の美沙さんです。」

と紹介して信子は少し照れた。

「そうですか、はじめまして。ぼくはここの校長の中山です。片山先生には同じ学校だったときに大変お世話になったのです。僕の憧れの先輩なんです。」

美沙はその言葉に小さく驚いて、挨拶をした。

「ニューデリーは大変でしょう。よくこちらへは健康管理休暇に近隣の先生方が見えますが・・」

「そうらしいですよ。私これで日本に帰りますが、この人たちはまだここで休暇を過ごすようです。」

「え?今日もう離れるのですか?ここを・・なぜもっと早く知らせてくださらないのですか?」

「いいえ、お尋ねするつもりはなかったの・・ただ今日ふと思い出したの・・」

と信子はお茶目に笑って見せた。

30分ほど談笑して、信子は満足してその中学校を離れた。

その別れ際に信子が差し出した手を中山校長は両手で包んで感謝の意を表していた。

美沙にはふと胸をつく感動に襲われた。

車に戻り、見送られながらその学校を後にしたが、信子は心なしかこの出会いに浮き立っているように思えた。

「美沙さん、ありがとう。ひとつお願いがあるの。翔一郎には言わないでね。
私は今日の中山さんとは馬が合う感じで本当に良い同僚として親しかったのよ。
でも翔一郎は変に誤解するでしょうからね。息子というのは誰しもちょっとマザコン気味でしょう?」

と、徒っぽく首を竦めた。

美沙は笑って承知したと首を縦に振った。
この義母にもこうしたほんの少しのロマンスがあったのかと、嬉しいような気持ちだった。

車は順調に高速道路を走って、海沿いの景色を見ながらチャンギ国際空港に着いた。

まだ搭乗時間までにゆったりとした間があった。

荷物を預け、チェックインをして二人は喫茶ルームでお茶を飲むことにした。

車の運転手は見送ったらコールしてくれと車のナンバーを美沙に告げ、恭しく信子に別れの挨拶をした。

信子は用意していたチップを渡して運転手に礼を述べた。

「美沙さん、本当に愉しかったわ。日本にいるよりも心が開放されました。
貴方のインドでの大変な生活も垣間見て尊敬したわ。本当にご苦労様でしたね。」

「いいえ、お母さん。私も大変なこともありましたが、仕事をやめて楽だったこともあります。日本に帰ってどうやって現状復帰するか・・ちょっと不安ですが、またよろしくお願いします。」

美沙は心から信子に打ち解けて話して、この旅の終わりを惜しんだ。

まだ時間はあったが、チャンギ国際空港の免税店を覗きたいという信子を搭乗口まで送り出発ロビーを振り返り振り返りして、タクシーなどの車寄せに戻った。

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そこに美沙を乗せてきた佐瀬の会社の車があり、その前に大きなトランクを今その車に積もうとしている若い男の姿があった。

美沙が近づくと振り返り、少し緊張気味に挨拶をした。

深井亮介だった。

                                              つづく


にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ是非押してね
クリックよろしく056.gifお願いします">



小夏庵
こちらも是非お立ち寄りください。

by akageno-ann | 2008-10-05 21:39 | 小説 | Trackback | Comments(12)

Commented at 2008-10-05 22:35
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2008-10-06 04:42 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by Nobue at 2008-10-06 09:20 x
ん?
なにやら起こりそうな展開ですね。
なんかドキドキしちゃったりして・・・(笑)
次が待ち遠しいですね。
Commented by CHIL at 2008-10-06 11:36 x
ついに深井さんが!!今後が楽しみです♪
信子さんと美沙さんの女同士の気持ちのつながりがあったようで
うれしいですね♪
姑の息子である夫に秘密で、姑との淡い秘密を共有。
これって嫁姑の関係の秘訣なのかもしれないですね♪
Commented by panipopo at 2008-10-06 13:34 x
信子さんの淡いロマンス、美しく描写されていて、読んで心が和みました。誰にでもこういったお話のひとつやふたつは、あるんだな、って改めて思いましたよ。2人の共通の秘密って、親近感が深まりますよね☆

そして深井さんがまた登場して来たので、ビックリですが、でもシンガポールとインドでは舞台が違うし、接点もあまりないんだろうな、って思ってますが。。。^m^でも、ann姉さんのことだから、お話に何かひねりがあるのかな、って楽しみにしています!

応援も☆★
Commented by びつきい at 2008-10-06 18:23 x
まとめて読ませていただきました。

と、深井さんが登場ですね!!
何が起こるんだろうと思いつつ、心の中での静かなふれあいがありそうなそんな予感がします・・・。

Commented at 2008-10-07 04:31 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2008-10-07 05:11 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by crystal_sky3 at 2008-10-07 10:12
これは不意打ちです!!笑 深井さんがこんなに突然現れるとは、思いもしませんでした!
二人の再会、どんな表情だったのかな。。。
あぁ、続きが楽しみです!!

信子さんと美沙さん、二人だけの秘密が出来ましたね。
お二人がだんだん女友達のような関係になってきていて、
嬉しくなっている私です^^
Commented by akageno-ann at 2008-10-07 11:50
突然の展開にびっくりさせてすみません・・
自分の中で解決がついていなかったのが気になっていました。

期待してくださってありがとうございます。
ちょっと心配ですが、続きを書きました。
本日はこれで返事に代えさせていただきます。
ちょっと作品の終末に向けて心が少し苦しいのは
なぜか?と思いつつ書いています。
Commented by cacaopon at 2008-10-09 10:37 x
♪ わあ!!びっくりしたあ!!信子さんを無事空港にお送りして美沙さんと一緒にほっと安堵してるところに、突然の深井さん登場。
期間限定の探偵としては、むむ? 
なあんて敏感に反応しちゃう。早く次のページをめくりましょう
Commented by akageno-ann at 2008-10-09 18:19
いいときに覗いてくれたのね・・
名前
URL
削除用パスワード