人気ブログランキング | 話題のタグを見る

no.10 永遠に続いていくこと

小説「かけがえのない日本の片隅から」第3部です。
ご高覧に感謝いたします。
にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村

LIVE 第3章 no.10 永遠に続いていくこと

家族の一人が病に倒れた時に、それがもしも自分であったら・・と想像できると、不思議と自然に手を貸すことができるらしい。

病が自分の心の中に全く存在していない場合、無理に手を差し延べようとして苦しむことはない。
ただ、その時に関わっている人たちのことを想像することは誰にもできるのだ、と悦子は思っていた。

悦子の両親は健康体であったから、年をとっているとはいえ、病気になった娘牧子の気持ちが本当にはわかっていなかった。

どう助けていけばいいのかも、わからないままだった。

時として真剣に介護する嫁ぎ先の姑みち子の姿に

「病院に任せておけばいいのですよ。」

と、言い放ち、周囲のものをびっくりさせることがあった。

「だって牧子はもう元にはもどらない」

そうかもしれない、そうかもしれないが、奇跡が起こる可能性はゼロではない、そう思いたい人々の心が瞬時にへし折れて行く音が聞こえるようであった。

だからといって、両親の考えが間違っているのではない。

ただ果てしない看病や介護に皆ひとすじの光明を持ちたいだけだった。

悦子が

「お母さん、お母さんがどう思おうとそれはお母さんの自由だけど、一般的にお姉ちゃんの回復をみな少しでも待っているわけだから、それをぺちゃんこにするのだけは辞めてほしい。」

そう悦子が嘆願しても

「実の親は気休めを考えたくないの。どうみたって牧子は普通には戻ってこられない。
医学の現場にいる貴方は、それを一番わかっているはずよ。」

この言い争いを何度してきたことか、その度に周りのものは一喜一憂していることを母は知る由もなかった。

被害者的な意識で、この現状からなんとか這い上がって行かねば一族が不幸になる、と
思えてしかたなかったのだ。

# by akageno-ann | 2011-02-16 16:24 | 小説 | Trackback | Comments(0)

no.9 愛と哀しみの狭間

小説「かけがえのない日本の片隅から」第3部です。
ご高覧に感謝いたします。
にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村

LIVE 第3章 no.9 愛と哀しみの狭間

悦子の姉 佐藤牧子が脳内出血で倒れてリハビリを始めて6カ月が過ぎた。
始めの頃の皆が常軌を逸したような動きは少しずつ諦めるという心情と共に冷静さを取り戻していた。
特に牧子の姑みち子はこの牧子の体が元に戻るならばどんなに費用がかかろうとまたどんなに遠い病院でも自分が付き添って連れて行くつもりがあった。

そのくらいの財力は夫と共に盛りたててきた印刷会社の隆盛のお陰でなんとかなった。
もちろん家族にしっかりと保険も入っていたので、治療費は充分に出るはずだ。

しかし現実にはそのほかの家族が普通の暮らしを続けていくことも優先に考えていくべき時期に入ってきた。

特に孫の直子の生活をしっかりと支えなくてはならないと思っていた。
まだ直子は音大付属の高校の三年生だった。

母親が重篤な病に陥ったときが二年生の文化祭前で、そのときに弾くピアノコンサートのためのドレスを調達に行った日に牧子の脳の血管が切れたのであった。

そのことを胸に重く捉えながらも直子は健気にピアノと学業を頑張って続けていた。

時には傍目にはなんとマイペースな子供と思われていたかもしれないが、直子は母の想いがわかっていたのだ。

周りの賛成でない気持ちを感じながらも直子の好きな道 直子の才能を少しでも生かしてやりたいと言う心でここまで育ててきたことを一番肌で感じていたのは直子だったのだ。

幸いにピアノはかなりな成績を修めることができ、最後の文化祭でも独奏者に選ばれていた。
衣装のことなど母はどんなにか楽しんで選んでくれたであろう・・と思うと、直子もふと寂しさがあったが、自分で全てやっていこう、という独立心も生まれ始めていた。

                                   つづく

# by akageno-ann | 2011-02-15 11:13 | 小説 | Trackback | Comments(2)

LIVE 第3章 no.8  諭す

小説「かけがえのない日本の片隅から」第3章です。
ご高覧に感謝いたします。
にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村

小夏庵はこちらから→☆

LIVE 第3章 no.8  諭す

病室から先に出て行ってしまった向井公一を 悦子は追いかけて、急いで捉まえ様とした。
少し急ぎ足で肩がいかって見えるのは、不愉快さを表す向井の癖だった。

「向井先生、待ってください。」
ほんの少しだけ声を大きくして悦子は向井を呼び止めた。

それでも少し歩速を緩めただけで振り替えらない彼の袖を掴んで

「先生、患者さんのことでお話がありますから・・」
と強く引きとめて、談話室に入った。

向井も口元を少し曲げながらもその部屋に入った。

「先生、あのような言い方では患者さんを説得したとしても、医師に手術を強要された、としかとられないと思います。先生はいつも患者さんの病状の最善を尽くそうと考えていらっしゃるけれど、その説明はあまりにそっけなく、結論を急ぎすぎます。先ほどの患者さんの年齢をお考えください。ご家族の方たちだって、治したいでしょうけれど、もしも手術という大きな治療をして今の状態より悪くなった時はどうしようか・・と考えるのです。」

悦子はそう立て続けにしゃべった・・

「しかし、そんなに難しい手術じゃないんだ、今となってはバイパス手術は大動脈瘤の手術に比べればリスクはすくないし、あの患者はその後に胃癌の手術が控えているんだろう・・なんで急がないんだ・・」

苛立っている向井がそこにいた。

「そういう先生のおっしゃり方は少し考えていただきたいです。患者さんの人生の中に手術に対する恐怖感があったらそれを瞬時に拭い去ることはできないだと思います。
あの方の弟さんは10年前に動脈瘤の手術を地方の病院で行い 術後が悪く病院で亡くなっていらっしゃるそうです。」


そこまで聞いて、向井の顔色が変わった・・

「それ、今聞いたの?」

「はい、傍に入らした息子さんがおっしゃってました。そのトラウマは一族皆もっているのです、とおっしゃってました。10年の歳月とここの病院の先進医療について少しお話してきました。明日の話し合いに他の兄弟を連れていらっしゃる、ということですから、どうぞ明日夕刻必ずもっと冷静にお話してください。きっと今夜皆さんそれぞれに考えられて明日前向きになられると思うのですが、それが先に少し伸びたとしても、あまり強要するような内容は困ります。」

「わかった!」

向井はそのときどこまで悦子の意見を聞き入れたかはわからないが、悦子は言うべきことを言った自分に満足していた。

『とてもじゃないけれど、この人と家庭は持てない。』
ふとそんなことを心に呟いていた。

しかしそれはこの医局でのパートナートしての立場では大いに許せることであった。

それは向井が治療に対し真摯に取り組み研究し、患者を良い方向に導こうとする意志は明確だったからだ。

その彼に看護士の立場でついていくことは、こうした言い合いがあったとしても意義のあることで、満足していた。

『きっとこんな諭すような喋りしかできない私を、彼は嫌になるでしょうね』

と、これは小さく声にして呟いていた。

                                      つづく

# by akageno-ann | 2011-02-14 01:13 | 小説 | Trackback | Comments(0)

LIVE 第3章 no.7  若々しい恋

小説「かけがえのない日本の片隅から」第3章です。
ご高覧に感謝いたします。
にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村

小夏庵はこちらから→☆

LIVE 第3章 no.7  若々しい恋

向井公一は36歳の若手の心臓内科医だった。
片山悦子の勤める病院は高度先進医療を進めている。

同じ心臓内科でも高度先進医療を進める病院の医師は患者への対処が大きく異なる。
特に昨今は高齢者の心臓疾患についての治療の選択肢は大幅に増えている。

その中にいて、向井の患者への接し方にしばしば苦言を呈するのが看護士としての悦子の役割だった。

向井はどの患者も老若男女全てに平等により進んだ治療法を話し推し進めるという医師であった。

ある日、がんセンターの方から胃癌の手術を目前にしている80歳の老人の心臓血管に異常が認められ、心臓内科に回されてきた。

向井はすぐに判断し、

「これは血管のバイパス手術が妥当ですね。胃癌の切除手術の前にさっそく行いましょう」

と、患者にいきなり説明をした。
その家族は二十年前に同じ系列の病院で同じことを言われ、拒否をし、ここまで投薬で生きながらえてきたことをくどくどと話していた。

向井は手術がベストだと考えていたので、

「今回の胃癌の手術が術中に心臓がもたなくなったらお話になりません。」
と、きっぱりと言って退けた。

その態度が80歳の老人にはひどく横暴に感じられたようで、病室で一瞬言い争いのような雰囲気になった。

そのとき看護士として付き添っていたのも悦子だった。
悦子は、向井の孤剣を汚さぬように、冷静に話の間をとった。

「また明日時間をとってゆっくりお話しましょう。別室を用意しますので、ご家族ご相談の上いらっしゃれる方にもご連絡をお願いできますか?」

そういなした。
向井はすぐにその場を離れたが、悦子は少しそこに残り、

「おどろかれましたね。今医学がかなり進んでいまして、20年前のその手術の方法とは随分違っています。明日ゆっくりご説明もしますし、また一日お元気になるためにお奨めした今日の向井先生のお話を少し考えていただけますか?」

と付け足した。あまり余計なことはいえないが、今心臓が悪いといわれたばかりの患者に対する表現としてはいささか無謀な言い回しが向井の口から発せられたと思った悦子は、なんとか自分でその場を修めたかった。

向井の一途さはこうして仕事にはもちろん、悦子への恋心まで率直で若さがあった。

その若さをどう受け止め、また考えていくか、も同時に悦子は胸に秘めていたのだった。

                                     つづく

# by akageno-ann | 2011-02-11 19:01 | 小説 | Trackback | Comments(0)

LIVE no.6  言わずともわかる心

小説「かけがえのない日本の片隅から」第3章です。
ご高覧に感謝いたします。
にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村

小夏庵はこちらから→☆

LIVE 第3章 no.6  言わずともわかる心

笹島との夕食は悦子にとって久しぶりの暖かい団欒となった。
姉牧子の病気以来、ゆったりとした食事をする時間を殆ど持たなかった。

悦子は患者に対してはよく「ご家族の健康が一番大事ですよ、病院に任せてのんびり団欒をもってください」・・などと薦めていることをふとここで思い出した。

「片山君、疲れているだろう。本当によく頑張っているね。自分も経験しているが身近なものを看病しているのは切ないものだ。仕事に打ち込む気持ちもわかるよ。」

そのなんとも甘い声に悦子は一瞬ぐっと涙ぐみそうになったが、気を取り直して

「はい仕事をしていると本当に心が強くなります。仕事を持っていて良かったとつくづく思うのです。この仕事のお陰で親族全てから信頼も得ていますし・・」

その健気さが笹島にはひどく愛おしく思えたが、ここでそんな甘い言葉を伝える必要はなかった。

二人は同士だったのだ。

同じ医局で日々厳しく共に行動する者たちが持ちうる合同の想いが 二人の静かな時間を豊かにしていた。決して必要な言葉はなく、美味しいものを美味しいといいながら・・静かに流れる時間。

「向井君とのことは大切に育てていくといいね。結婚という形は僕は良かったと思っているんだ。
別にのろけているのではないよ。」

そんな風に話す笹島が悦子は好きだった。

「分かっています、先生」

そう 二人はどこにいても医局での互いの立場を守っていた。
その関係は恐らく変わることはなかった。

このマカロンという店での二人の時間も大変に珍しいことだったのだ。

デザートのフォンダンショコラは焼きたてをその熱さに気をつけながら食べる。

カカオ分が多いので男性にも人気がある、とここのシェフは男性客を大事にしている。

「日本の男性は欧州の男性陣と比べると洋菓子の甘さをあまり好まないのですが、やはり酒と食事の後に甘いものを楽しむ心を持ってほしいと思っているのですよ。」

とマカロンのオーナーシェフは言う。

カウンターには紅茶の缶が色とりどりに置かれて、彼の紅茶への想いが伝わる。
ここはカレー料理もおいしいので、インドのスパイシィなチャイも美味しく入れる。

悦子は笹島の医局では見せない一面を見せられたことが純粋に嬉しかった。

                              つづく
2月7日 ブログ仲間のイギリスのいっちゃんが、
集英社「お料理@LEE」vol.2でイギリス便りを届けてくれてます。
美味しそうで、楽しいパブ便りをいっちゃんと一緒に行って体験できるような素敵な写真満載です!
LIVE no.6  言わずともわかる心_c0155326_7415272.jpg

イギリスでの生活をお料理とブログで、より生き生きとしたものにされている
いっちゃんには毎日更新のブログからいつも素敵なエネルギーをいただいてます。→☆
LIVE no.6  言わずともわかる心_c0155326_7403974.jpg

お酒のおいしさも伝わってきます068.gif

そしてそのお友だちのミンミン亭の紅茶教室に通っています。その様子はmoreをクリックしてください。
↓  ↓  ↓

More

# by akageno-ann | 2011-02-06 23:13 | 小説 | Trackback | Comments(6)