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小説 その10

ひまわりのような人
小説 その10_c0155326_12311578.jpg
その10

堀田沙耶は中村宏を愛していると感じていた。

初めて大人の恋をしていると心は浮き立ち、四六時中 宏のことが頭から離れなかった。文学部なので授業中もそういう恋愛の妄想に浸ることは容易だった。
ましてや彼女の卒業論文は中世の能の中でも鬘物(かずらもの)という女ものを取り上げていることが多かったのだ。

縁起の良い「羽衣」などもその一つだが、美しい女性を描く内容のものだ。

恋愛は時としてやる気に拍車をかけるが・・ひとつ間違えると邪魔になってしまうこともある。

恵子の時代は比較的恋愛が地味だったから先ずは学業優先という雰囲気の中で過ごせたが、今は自由な時代 学生生活も上手に単位をとってしまっていると、暇な時間が随分あるようだった。

しかし、沙耶の付き合い始めた中村宏が年上の社会人のせいなのか、先ず沙耶に学業優先を唱えているらしい。

自分とつきあうことで学業が疎かになった・・などということになれば即刻この付き合いは消滅することをさすがに本人が一番知っているようなのは助かる。

日を追うごとに綺麗に成長しているような娘の様子が眩しくなってきた。

「沙耶ちゃん、どんな将来を考えているの?」
と、ある夕食の片付けのときに手伝っている沙耶に恵子は尋ねた。
「どんなって、しっかり就職するわよ。教職もしっかりとるし、来年は公務員試験を受けます。」
そう沙耶はきっぱりと答えた。
沙耶のこの成長振りはまさしく中村宏の存在のせいだった。
「結婚のことはどう思ってるの?中村さんと結婚を考えるにあたって貴方は年の差はどう思ってるの?」

「お母さんは反対?年の差は気になるの?」

「う~~ん、世間一般のように反対ではないけど、ただね今は気にならない年の差は貴方が年をとる時に感じるものであるから・・それは言っておきたいの。」

恵子は続けた。

「だって貴方が50才のときにお相手は65歳よね・・それはどういう感じなのかわかる?」

しかしその問いに意外にも沙耶は考えたことがあると答えてきた。

「中村さんは今私と結婚しなくたって、だれかと結婚して子供を持つときやはり高齢での子育てよね。でも私が若い分その若さと言う点で役にたつと思うわ。そして私が無知な部分をたくさん補ってくれるのよ。」

その即答には恵子はちょっと驚いて見せた。
娘沙耶の成長を喜んでやりたくなったのだ。

                                    つづく

写真は友人の三歳のお子さんが私の為に描いてくださった「ひまわり」

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# by akageno-ann | 2009-08-14 12:32 | 小説 | Trackback | Comments(7)

小説 その9

ひまわりのような人
小説 その9_c0155326_20342627.jpg
その9

田部夕子はあの日以来、自分のこれからの身の振り方について気になっていた。
これまでは一人での生活に優雅さを感じても孤独さに浸ることはなかったのに・・

堀田恵子と飲んで話したその日から、恵子のいう高校時代の同級生K君の存在を意識していた。
『50才近くになって昔の恋を意識するとは全く、私も何を血迷っているのかしら?』

実際夕子自身驚いている。しかし実はその前にあった同期会でKの存在は少々気になることがあった。
その会は貸切のアイリッシュバーで二次会が行われたが、カウンター席に座っていた夕子にKが一度だけカメラを向けたことがあった。

夕子が
「ひゃ~~写真はやめて~~~独り身はあまり慣れてないのよ・・」

と、おどけて言ったときのKの反応があまりに目が輝いたことだった。

「まさか~~ほんとかよ?」
と、だけ返してきて、そのまま他の人の方へ行ってしまったが・・

その時はさほど心に留めなかった出来事が、こんなにあとになって思い出されるとはどういうことか・・今さら高校時代の友人との出会いが再燃することがあるだろうか・・

そう思っただけで心がくすぐったくなった・・

夕子には兄弟があったがそれぞれに両親の家から離れて暮らしていた。
兄も弟も夕子が一人身なのをここへきて有り難いことと感じているようだった。

それぞれの家族構成に新たに両親をいれることはなかなか不都合があると感じていたので、夕子が両親と暮らしてくれれば好都合だった。

しかしなかなかそう簡単にはことは進まないのが世の中だ。

まだこの時点で夕子が結婚すると決まったわけではなかったが、夕子の人生はちょっと方向を変えつつあることを神だけはご存知だったようだ。

堀田恵子は自分の娘の恋愛については頭が痛かったが、友人夕子のこれからの恋については小悪魔的な気持ちで様子をみようとしていた。

そのことが、おそらくこれからの娘沙耶の将来にも役立つことがあるようにも思い、少し打算的な己を感じて背筋が寒くなった。

自分にはもうない恋の体験をもしかして他人の体験で楽しもうとしているのではないか?と考えるとその邪悪な気持ちを抑えなくてはならないのに・・どこかで愉快さを感じているということを知ってしまっていたのだ。

つづく

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# by akageno-ann | 2009-08-12 20:38 | 小説 | Trackback | Comments(4)

小説 あの8

ひまわりのような人

その8

沙耶は以来父親には秘密でときどき中村宏に会うようになっていた。

親に秘密にするということが恋愛感情を高めているようにも見えたが、中村が父親の部下であるということは、母親の恵子にとっては少し安心材料になった。

女同士というか、母親の勘というか、恵子は中村と娘沙耶の交際はすぐに察知できた。

息子の彼女のことも心配でないこともないが、不思議と娘のことの方が気になるのは同性だからなのか。

恵子が焼き鳥屋で友人夕子と飲んだ夜も沙耶は中村宏と食事して帰宅していた。

母親が遅いことを知っていたので、態度も自然リラックスしていた。

少しアルコールが入っているようだった。

「飲んだの?中村さんと・・」

悪びれることもなく沙耶は
「うん、お食事ご馳走になったわ・・」

「そろそろお父さんに話しておかないと、わかったらきっととても嫌な思いするわよ。」
沙耶はそういわれてちょっとはっとしたようだった。

「お母さんは中村さんのこと許してくれてるよね?」
そう言われて、恵子は真顔になって答えた。

「沙耶ちゃん、貴方は結婚のことを考えているの?中村さん貴方より一回り以上年上よね!単純な恋人としてのお付き合いなのかしら?」

「結婚のことなんか、まだ何も言われてないもの。大学をきちんと卒業しなさい・・って言ってくれてるし・・」
「大学を卒業したら本格的に付き合おう・・ってことなのかしら?」

「わからないけど、でも中村さんは私のこととても大事にしてくださるわ。」
心をすっかり一人の年上の男に奪われている様子が恵子には伝わってきた。

自分も初めての恋は年上の人だった、と思い出していた。
恵子の場合父親が高校時代に亡くなっていたので、余計に父親の印象を求めていたように今振り返る。

しかしあの頃、そのような年齢差のある交際は世間であまり認められないような風潮にあった。
あのとき結婚できなかった相手の様子は実家の近所の人だったから、今も消息はわかる。

いつかばったり再会したこともあった。

気まずさも思い出すが、懐かしさのほうが先にたった。

「恵子ちゃん元気そうだ・・」

とその人は眩しそうな目をして言ってくれた。
還暦を越えたような年だったと思うが、若々しかった・・

「お母さん、応援してよね・・・」

沙耶が懇願するように言ってきて・・はっとした。

「中村さんのこともう少しいろいろ教えてよ・・」

そう言ってその場を凌いでしまった。
                             つづく

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# by akageno-ann | 2009-08-10 12:52 | 小説 | Trackback | Comments(2)

小説 その7

ひまわりのような人

その7

堀田沙耶は20歳になったばかりの大学三年生である。

男の兄弟に挟まれているせいか女らしさよりも男勝りな性格がある、と母親の恵子は感じている。
兄弟の面倒もよく見る代わりにミニ母の立場も取得していて、時には元祖母の恵子に対して手厳しい批判もする娘だった。

だが最近妙に優しさが出てきた、と母の直感で感じている。

沙耶は恋をしている。

しかも相手は夫の部下だ。

夫 堀田紘一郎は大手エレベーター会社の営業で部長になって三年がたった。

管理職になってからは久しくて、仕事は忙しいのに残業手当はつかない、という状況は本来かなり厳しい生活を強いられるはずだが、父親と同居であることが随分と家計を援けられている。

しかし長男の大らかさか、そんなことで実の父親に負い目など感じることもなく、一緒に住んでやっている、という姿勢は最初から崩れていない。

だから、会社の同僚 部下なども年に何度も招いては妻恵子の手料理を食べさせることを一つの管理職としての面目を立てる機会にしているようだった。

そんな中に30代半ばの中村宏がいた。

中村は独身で気さくな人柄で、客の中で自分が年下と言う立場にあると、自ら配膳や酒の調達など進んで行い、恵子の立ち働くキッチンに気安く入って手伝った。

堀田の家は来客は家族総出でもてなすと言う風にしているせいか、家にいる子供たちも良く手伝わされた。

大きくなった男の子たちはさすがに照れて、あまり客の前には出なかったが、娘の沙耶は進んで客の接待をするようなところがあった。

料理にも興味があって、前菜やデザートなどは最近では沙耶の担当と決まっていた。

あるとき、彼女の作ったゼリーが美味しいと、その中村が一人で三人分も平らげたことがあった。

最初は冷やかしのように

「沙耶ちゃんのような人がお嫁にほしい・・」などと言っていた中村だったが、

年はかなり上でも独身であることは間違いなく、結婚相手を物色中であったのだ。

親の立場の夫も、最初冗句ととっていたのだが、意外にも沙耶の気持ちが動いているのにある日恵子が気づかされた。

それは、沙耶が大学の帰り道、池袋の大きな本屋に立ち寄った時、ちょうどエレベーターの修理の問題でそのビルに派遣されていた中村が沙耶を見つけて、声をかけたことがきっかけになったのだった。

その日、帰宅してすぐに沙耶は
「中村さんに会って、お茶をご馳走になった。」

と、報告があったのだ。
                                    つづく

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# by akageno-ann | 2009-08-09 01:17 | 小説 | Trackback | Comments(4)

小説 その6

ひまわりのような人

その6

堀田恵子が家に帰ったのは夜の10時半のことだった。

家の灯りはほの暗くて玄関の防犯灯も点け忘れている。

夫や子供たちは自分の帰宅時にこんなに暗かったら不安がるだろうに、人の為に電気をつけておこうという気遣いがほぼないのが寂しかった。

まあそんな風に家事全般についてあまり手伝わせなかったことは恵子自身の指導不足なのだが・・・

しかしその夜、夫も娘も帰宅していず、末っ子の貴と舅の二人だけだったのに驚いた。
キッチンの流しは夕食を食べた二人がそれぞれに片付けたようでさっぱりとして綺麗になっていた。
舅の居室の外から

「お父さん遅くなりました。今戻りました。」と言いつつ扉を開けて挨拶すると
テレビに見入っている舅が振り向くこともなく、
「ああ・・」と返事をした。

恵子は
「貴と食事されたのですか?」と聞くと

「貴は急いで食べて部屋に入ってしまったよ。他の者は誰も帰ってこん。」
予定通りといえばそうなのだが、昨日からこの年寄りが一人になることを他の皆に話しているのに、この有様はいったいどこに心が存在するのだろうか?と恵子は少し哀しくなった。
この家庭の唯一のまとまる場所だったはずの食卓が最近崩れ始めている。

子供たちの成長と共に食事時間がまちまちになってきたのを許したことがいけなかった、と恵子は省みる。

そして舅が全くアルコールを受け付けない性格であることも実の親子である夫との距離ができてしまった要因になっている。

恵子自身はずっと子供や舅に合わせてアルコールを口にしなかったが、外食時にちょっと嗜む程度のワインなど美味しく感じるようになって、最近は帰宅の遅い夫の晩酌に少し付き合うようになっていた。

そして更年期の症状のあらわれなのだろうか・・
夕刻食事つくりの時間になるとやる気が失せたり、眩暈がしたりするようになって、ほんの少しのアルコールを口にすると心が軽くなることを覚え、家族にも話してワインやビールを少し飲むことが増えてきた。

おそらく最初は舅は理解できないことだったと思うが、恵子自身が明るく家事に携われるのをみると次第に許容しているのだった。

しかし恵子にはだんだんとアルコールに強くなっている自分を感じていた。

その頃夕子や友人たちと飲む機会ができ、益々と解放される自分の心を感じているのだった。

末っ子の貴の部屋をノックすると低い声で「はい!」と返事が返ってきた。

「どう、おじいちゃんと食べたの?悪かったわね・・」

「いいよ、おじいちゃんが片付けてくれたよ。」

「そうなの・・勉強はかどってる?」

「うん、宿題難しくてきついけど、あとでお姉ちゃんに聞くよ。英語だから」

そんな貴との何気ない会話が今夜は恵子の心を救ってくれていた。

「夜食もってくるね・・ミスドのドーナツだけど・・」

「うん!」

男の子はこの返事で結構喜んでいるのだということがわかる。

まだ我が家も最後の砦は壊れていない、とそのとき安堵した。

やっと娘の沙耶が帰宅したようだった。

                                      つづく

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# by akageno-ann | 2009-08-07 18:32 | 小説 | Trackback | Comments(5)